丘に日が昇る
いまの時季は太陽がやや南に逸れた東の空に昇ります。家に近い美幌川の土手からは、対岸の丘にある製
粉工場の右手に見えてきます。年末の日の出は南の藻琴山だったので、４５度近く移動したことになります。こう
なると町内のどこからでも、たいてい木々に邪魔されて丸い形を撮ることができません。道路凍結の心配がなく
なったら、夜明け前にまた岬に出かけて海の日の出を待ちましょうか。
政治の現在と未来についての感想 11
――― 私利私欲は文明とともに
められない自治体が少なくないと、報道されています。被災地にはこう考える人もいるでしょう：自
分たちは日々放射線の脅威に晒されている。それなのに、線量がずっと低いガレキの受け入れ
先さえ決められないとは、国はなんて無能なのだ、と。放射線被曝にこれ以下は安全という基準
はないのだとすれば、受け入れを求められる自治体住民の危惧に根拠がないとは言えません。
一方ガレキの始末がつかないままでは被災地の生活再建は困難です。双方がそれぞれの根拠
から、公権力の行動を自分たちの利益に引き寄せようとしているように見えます。
いち早くガレキ受け入れの方針を表明した都府県知事のなかには、学校行事で君が代斉唱に
消極的な教員に強固姿勢を示す人が含まれています。彼らには、ささいな被曝を恐れてガレキ受
け入れに反対する住民や、君が代を歌いたくないと言う教員が、私的感情にこだわって全体利益
の実現を妨げる不届き者に思えるのでしょうか。その知事の何人かが原発廃止の意見を表明して
いることも、｢全体利益を断固推進する｣姿勢を印象付けるのかもしれません。｢雑音に惑わされな
い実行力がある｣として、彼らを支持する人も少なくないようです。なにしろいまは、無力な政治に
対する苛立ちが溢れていますから。
私利私欲は文明や国家とともに始まったのではないか、最近わたしはそう思っています。ガレキ
を受け入れるかどうかの、自分に有利な決定を求めるのは私利私欲。原発運転で地位や収入を
守ろうとするのも、自分たちの健康のためにそれを公的に禁じさせようとするのも、私利私欲。自
分が君が代斉唱に抵抗がないからといって、歌うことに苦痛を感じる人に公権力で強制するのも
私利私欲。暖炉をやめてと自分で言えば相手と気まずくなるかもしれないと恐れて、暖炉禁止の
法律を求めるのも私利私欲。自分に有利な条件の整備を社会に求めるのは、すべて私利私欲。
大義の名の下に名声、権力、地位、財を競う政争は、初期国家の時代から始まっています。今は
公共政策をめぐる複雑な私利私欲のぶつかり合いが国民の下層まで及ぶようになって、政治が
機能不全に陥っています。そう言うわたしも私利私欲にまみれていますが。
頼る人が家族や顔見知りの仲間しかいない狩猟採集の部族なら、公共の名の下に他人を利用
しようとは考えないし、考えてもできません。働き者も怠け者も、狩が上手な人も下手な人もいる
でしょう。でも頻繁に猟に出る名人が遠くまで歩き回っても、まったく獲物がない日もあります。お
腹をすかせて部落に帰ったとき、怠け者が近くの森で採ってきた木の実・草の根で、彼は元気をと
りもどします。森の稔が乏しい年もあります。そんな時は、祭りに招き招かれたり贈り物を交換し
たりして付き合いのある、海辺の部族が頼りです。狩がうまいと威張って嫌われていたら、いざと
いうとき援けてもらえません。荒ぶる自然は独りで生きるには厳しすぎます。文明以前の人が注
意深く親和を維持する努力をしたのは、いい人たちだったからではなく、親しい仲間と協働しない
と生きられないから。ヒトは発達した社会脳で意識して親和関係を築く動物です。
見知らぬ人々のなかから、気の合う仲間、言うことをきく部下を見つけることもできます。財、特に貨幣
は、個人を集団から自由にします。しかし財は、所有の安全と公平な取引を保証する公的秩序がなけ
れば無力です。秩序を担う公権力は、武力を整備し、領土を確保し、公人層を養い、公共事業を実施
する財を必要とします。強力な公権力は財を蓄えただけの私人より優位に立つことができますが、衣
食住を中心とする生活財の生産者がいてこその権力です。公人も私人も互いに依存しながら万民が
万民と私利私欲を争う、それが文明社会のようです。(続く)
