開陽台の夏の花


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 8月の開陽台で見かけた花です。ノリウツギは丘から下る道の脇が特にきれいでした。白っぽい紫のはミツバヒ

ヨドリかサワヒヨドリじゃないかな。マーガレットの隣に咲いた黄色はたぶんノボロギク。襤褸(ぼろ)の名のとおり、

近くで見るとあまり格好のいい花ではないですね。最後はコウリンタンポポ


ピダハン―類を見ないほど幸せな人々 ⑩
 
 エヴェレットは実際に追放が行われることになったある事件について、少し詳しく書いています(202210

)。要約するとこういうことです。あるピダハン村の近くでアプリナ族の数家族がくらしていました。彼らは、ピ

ダハンと同じように、狩り・漁・採集・キャッサバ栽培などが主な生業でした。それでも、西洋の産物に頼るとこ

ろが多かった分だけ物質的に恵まれていて、内心ではピダハンを侮る気持ちがありました。しかし彼らは短波

ラジヲで確かめた市場価格に従ってピダハンとジャングルの産品を取引し、友好関係を保とうとしていました。

ところがピダハンは彼らを侵入者と見て、好意をもっていません。アプリナの人々はそれを知りませんでした。

 その両集落と取引をしている悪辣な商人の一家がいて、市場価格よりずっと安い値でピダハンから品物を仕

入れて儲けていました。アプリナの人たちはそれに腹を立て、銃で威嚇し、両集落に近づくことを拒みます。商

人一家は報復しようと、ピダハンの若者の一人に銃を与え、アプリナを襲うようにけしかけます。彼は他の若者

二人を誘って襲撃を実行し、一人を死に至らしめます。アプリナは襲撃者の仲間とは知らずに、ピダハン集落

に逃れて助けを求めました。やがて自分たちに対するピダハンの反感と襲撃の真相を知って、一人は復讐し

ようとしますが他のアプリナに引き止められ、けっきょく居住地を放棄することになりました。この事件をブラジ

ル警察が捜査しはじめたと伝わって、ピダハンは殺人を犯した若者を追放します。共犯の二人はそのままでし

た。追放された青年は一ヵ月後に原因不明の死を迎えます。けっきょくピダハンは狩場・漁場を独り占めにし、

キャッサバ栽培(ピダハンが始めたのは近年になってから)に適した土地を手に入れたことになります。

 ピダハンは自分たちの集団内部では権力支配を許さず、暗黙のうちに全体の合意が形成されるのを

待って、穏やかにまとまりを維持しようとします。しかし、アプリナのように文化に共通な部分が少

なくない場合でも、外部には容易に心を開かず、必要なら暴力で対応することも辞しません。数や色

を表す言葉を失うほど徹底して抽象概念を拒否したのも、外部文化の浸透を防ぐためだったのでしょ

う。その結果、文明との接触が始まってから300年間ずっと、内部の結束を維持することができまし

た。とはいえそのやり方では、顔見知りの範囲を超えて集団を大きくすることはできません。狩猟採

集民が、武器の扱いでは優れていることはあっても、最終的には侵攻してくる文明に屈服したり放逐

されたりした最大の原因は、集団間の結束の難しさだったのではないでしょうか。文明は神の権威、

法、組織された暴力による統治を発達させ、お互い接触のない人々の大集団を形成します。「蛮族」

が彼らに対抗できることもありましたが、そのときは文明に学んだ統治を取り入れ、権力支配を容れ

ない内部構造を失います。

 これまでの文明はすべて、序列秩序をもつ組織による大規模社会を営んできました。しかしその社

会はけして人々を幸せにするものではありませんでした。とはいえいまさら、基本的には自給自足

で、集団と集団が緩やかに交流して過不足を交換する、小集団並立の社会に戻ることはできません。

生活圏が近い小集団が互いの存続をかけて殺しあわずにすむのは、手に入れられる資源に対して人口

が希薄な地域、時代に限られます。“Atlas of World Population History(PenguinBooks 1978)


の推計によると、1500年の世界人口は42500万人です(『「飢餓」と「飽食」』2629頁 荏開津典

生 講談社)。この段階の地球上ではまだ、文明とあまり接触することなくほぼ自給自足でくらす小

集団に属する人の数は、かなり多かったと思います。しかしいまの世界人口は70億を超えています。

自然経済でこの人口を養うことはできません。それに、いまやほとんど全地球規模で物流網や情報通

信網が姿を現しています。文明にどっぷり漬かったわたしたちが、それに背を向け続けることは無理

です。それでもピダハンのようにもっと笑ってくらしたいと思えば、序列秩序と抑圧を軽減するよう

に、地球規模で文明を方向転換するしかないでしょう。

 それを空想的だと感じるとしたら、わたしたちが既成文明の内部に閉じ込められているから。内部からは見

えないものも、外からは見えることがあります。例えば、乳幼児期の親子関係による心理的傷を人の宿命み

たいに思っている心理学者もいますが、ピダハンなど、文明以前のくらしにはほとんどないようです。文明の

何が人の不幸を増幅させているのかを理解するには、ちがう生き方を選んだ人々の視点で見る試みが役に立

ちます。文化人類学などの研究が進み、少しずつその手がかりが得られるようになっています。ところが、動

植物の多様性が恐ろしい勢いで失われているのと並行して、先住少数民族の言語・文化もいま絶滅に瀕して

います。文明の新しい方向を見定める前に、その貴重な手がかりが失われてしまうのではないかと心配で

す。(終わり)