凍湖ゆるむ


 タムラ、白鳥は水を掻く脚を水面下に隠し、優雅に泳ぐイメージだよね。ところがこの日は黒い脚を曲げて、そ

の一部を湖面から覗かせ、水掻きで氷を掴むようにして、首を伸縮させながら、ひょこひょこ進んでいたよ。

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 3月下旬、能取湖に張りつめた氷が緩み始めていました。オホーツク海に糊口を開く北のほうから、氷が割れて

いきます。陸に入り込んだ南奥のほうは、まだ水面が見えませんでした。


これからの温暖期・数十万年の見取り図 
 
 6 グリーンランドの未来

 グリーンランドは島とされている〔世界最大、216.6平方キロ〕が、フランス〔55.2平方キロ〕の

約四倍の、〔オーストラリア大陸の約35パーセントの〕広さがある。現在約5万人のイヌイット6

000人のデンマーク人がくらし、デンマーク王国に属する自治領となっている。2008年の、独立

の可否を問う住民投票では、賛成が多数〔75.4パーセント〕だった。

 グリーンランドでは、現在氷の消えた地域で10箇所以上の金産出地が見つかっており、モリ

ブデン・鉛・亜鉛鉱山が稼働中で、ルビーがあちこちで発見されている。さらに、ダイアモンドを

含有するキンバーライト、新しい宝石と期待される緑の鉱物、銅、プラチナ、ウラン、チタン、ニッ

ケル、鉄などの鉱脈が有望視されている。東部の一部だけでも、石油の埋蔵量は90億バレ

ル、天然ガス25800億立方メートルという評価もある。

 極端なシナリオでは西暦2500年までに、控えめなシナリオではそれより数百年遅く、氷床の

3分の1が融け、725000平方キロの新しい土地が現れる可能性がある。過去の温暖期のよ

うに林が繁り、今は高価な輸入品である薪、建築材料、野菜、肉・乳製品も自給できるだろう。

北極海で栄える漁業からの収入にも大きな期待がもてる。内陸には深い湖がいくつもでき、サ

ケやマスの養殖も可能になる。夏の気温は13度、冬でも7.5度ほど今より暖かくなる。西暦500

0年には、一年を通じて全島がほぼ無氷状態に。

 「このように、氷のない広大な土地、農作物、家畜、海産物、鉱物、化石燃料資源といったす

べてが揃えば、豊な経済をつくりだす材料は十分だ。」(284) 一方デンマークは国土が43

000平方キロで、今後は海面上昇でさらに土地を失う。
 
 6 熱帯と温帯

 北極域や南極域では、熱を反射する氷雪の消失で気温上昇が加速される。高緯度地帯での

予想上昇気温が平均の2倍になるということは、他の地域では平均を下回るということ。熱帯で

は今より暑くなっても、それで死ぬようなことにはならない。体が慣れていないと、急な気温上

昇による熱射病で死ぬこともあるが、しばらくすれば対応できるようになる。

 熱帯では気温より降雨パターンの方が重要だ。ところが湿潤の変化は気温よりずっと予測が

むずかしい。信頼できるシミュレーションが可能だとは、いまだに言えない。熱帯の降雨傾向

は、時機や地域によって思いがけない変わり方をすることがある。

 ほとんどのモデルが、21世紀中に南アジア、アフリカ、南米の赤道地帯が湿潤化すると予想

している。それより少し緯度が高い地域の乾燥地帯は、より乾燥化が進むところが出てくるだ

ろう。一般的に言えば、熱帯の気候システム内の現在の傾向が、極端になる可能性がある。

近い将来深刻な水不足の可能性が最も高い地域のひとつは、アンデス山地と東太平洋に挟ま

れた海岸地帯である。そこには現在、ペルーの人口の半分がくらしている。

温帯各地域の気候変動を予想するのは、熱帯よりさらにむずかしい。全体が温暖化するなかで、一

 部だけが寒冷化するようなこともありえる。雨量の増減については、北アメリカ、ヨーロッパ、中央アジ

 アのほとんどが湿潤化し、アメリカ南西部、パタゴニア、南オーストラリア、南アフリカのケープ地方、そ

 して地中海一帯は乾燥化するという予測が成り立つ。(明日に続く)