秋の浮島湿原
走ると、案内板がある駐車スペースが現れます。ここから根まがり竹とエゾ松類の間をゆるやかに1.6キロ登り
つめた先に、浮島湿原が待っています。前に訪れたのは花の季節。ハクサンチドリなどの高山植物が印象的で
した。このときは地元の人らしい何組かのパーティーにも出会いました。今回は9月14日の朝です。咲いている
花は、沼と沼の間の草地に散らばるエゾリンドウだけ。熊が出るのではとおびえる同行者が振る鈴の音を除け
ば、静寂そのもの。人だけでなく動物の気配もありません。たまに遠くで囀る小鳥の声が聞こえると、むしろ静け
さが深まるようでした。
ここは標高850メートル、面積約700ヘクタールの高層湿原。散らばる沼の数は200ほどとか。尾瀬ヶ原ほど
開放感がないのは、泥炭で黒く見える湖面と間近に迫る林のせいです。池塘のなかの小島に、枯れた草が集積
した浮島が含まれていることから、ここの地名がつけられたようです。こじんまりとしている印象ですが、老朽化し
て閉鎖された木道を除いても、ゆっくりたどれば1時間ほどは楽しむことができます。よく晴れている日は遠くに
大雪山系などの稜線も見えますが、全体として深山にひっそり籠る湿原の印象で、秘境と呼ぶ人がいるのも納
得できます。