野付湾7月の風景


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   野付半島から見た昨日の野付湾です。着いたとき、標津、抜海の一帯は今にも

降りそうな曇天でした。帰るころには青空が広がりましたが、羅臼国後島方向の

海は霧にかすんだまま。知床峠を超えた宇登呂は晴れ、美幌に向かって国道33

4を走っているとき、小清水から東藻琴では激しい雨、家に着いたら一滴も降った

様子はありません。局地的に様々な天気が混じる変な日でした。

   天気が良くても悪くても、7月の野付半島は最高です。木立が海に浮かび、緑濃

く、色とりどりの花が咲き乱れています。それぞれをテーマに、おいおい写真をアッ

プしますが、今日は湾の海面を中心に。

   全行程300キロメートル余、8時間ほどのドライブになりました。腰痛も出ず、久し

ぶりの長距離運転、楽しかったなー。


                                小説 縄文の残光 102
 

                          アテルイの夢(続き)

 
      こっちに戻ってから、一人の老婆が、こんな話をしてくれた。若いとき、多賀

   城のある武人に俘奴婢として買われ、身のまわりの世話をしていたことがあ

   る。その男が口癖みたいに、「天皇(すめらぎ)の御心に沿うためなら、命も惜し

   まない」と、言っていたそうだ。

      オレたちも、仲間や家族のために命を懸けることはある。相手が、いつも喜

   びも悲しみも共にする、大切な人だからだ。だけど、武人の天皇への忠誠は、

   それとは違うらしい。知らない相手でも、天皇に忠誠を尽くし、その御言葉に従

   う者であると分かれば、力を合わせて何かができる。

      天皇が別な者に変われば、新しい天皇に忠誠を捧げる。天皇は、武人個人

   にとってどういう人かとは別に、ヤマト人をまとめ上げる仕組みとして崇尊する、

   ということのようだ。

      誰もが天皇に忠誠を誓い、その命令に従うはず、従うべきだ、という考えが

   通用しているから、朝廷から、国へ、郡へ、郷へと、命令が伝わる。順に伝える

   仕組みが、身分であり、地位の序列だ。

      当麻のところで、書物という物を目にした。その一つに、「大義」という言葉が

   あった。誰もがそう思うはず、そう思うべき、という考えを表す言葉だったんだ

   と、老婆と話していて、オレは思った。戸籍が役に立つのも、大義があって、そ

   れに基づく、細かな仕組みができているからだったんだ。

      その後オレは、ヤマトのことをもっと詳しく知りたくなった。伊沢の俘囚に、柵

   戸のくらしぶりを詳しく聞いた。都に上ったことがある長老にも、いろいろ尋ね

   た。オマロの父母にも、砂尻郷の様子を細かく話してもらった。

      それで分かったんだ。身分・地位が高かったり、物持ちだったりすれば、床

   を敷いた大きな屋敷に住み、家人(けにん)や奴婢に傅(かしず)かれ、いつでも

   腹いっぱい飲み食いできる。だけどたいていの百姓は、オレたちより貧しいくら

   しをしている。

      オレたちは、みんなが食うだけの稲が稔れば、それ以上田を広げたりはしな

   い。肉があるのに獣を狩ったりもしない。田仕事を片付け、狩りが終われば、

   昼寝や、おしゃべりや、男と女の掛け合いで、のんびり過ごす。年に三回の祭

   りの他に、何かと口実をつけて宴を催し、みんなで楽しむ。部族の者同士は、

   お互いに何事も隠さず、血縁がなくても家族のように睦みあう。

      だけどヤマトでは、だれもがより高い地位、より多くの財を求めて、競い争っ

   ている。百姓は、家族の必要を超えて、賦役のために働かされ、かつかつのく

   らしをしている。いつも食う物の心配があり、疲れている。気持ちにゆとりがな

   い。他人を利用してでも抜け出したい日々だ。家族の間でさえ、だれかに利用

   されることを警戒し、開けっぴろげになれない。他人より優れているところを誇

   り、自分より劣る者を蔑みたくなる。

      自分をさらけ出せない相手とは、本当に親しくなんかなれない。淋しくなって、

   地位や財の力で他人を支配し、埋め合わせようとする。力のない貧しい者も、

   心の底には、成り上がりたいという欲望をもっているようだ。  (この章続く)