森に咲くゴゼンタチバナ


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    エゾアカマツの森に咲くゴゼンタチバナの花です。森があるのは、  川湯エコミュ

ージアムセンターの裏。この草は、葉脈がくっきりして端正な印象の葉も、秋の赤

い実も好きです。日当たりのよくない森の木陰を好む陰性植物。本州では高山の

植物ですが、ここでは標高170メートル以下の平地に大きな群落を作っています。

   白いと四枚の苞に囲まれ、頭の黒い蕊のような集まりが花だそうです。葉は四枚

のものと六枚のものがあります。花が咲くのは六枚の方だけ。どちらも葉の大きさ

は変わりませんが、成長して枚数が二枚増えるのでしょうか。


                             小説 縄文の残光 101
 

                        アテルイの夢(続き)

 
      当麻は都の様子を話してくれた。オレたちの小屋を二十も三十も合わせたよ

   うな、どでかい家がたくさんある。中でも天皇(すめらぎ)の居所がある朝廷は、

   モチザワ部族の広場とすべての小屋を併せたより大きい。邸宅以外にも、大

   寺がいくつも建っている。中には、盧舎那仏という異国(とつくに)の神を模した、

   五十尺(14.7メートル)の巨大な金銅像を納めた寺もある。その像は大仏と呼

   ばれているという。

      都からは、幅八十尺(24メートル)や百四十尺(42メートル)の、固く平らな道

   が伸び、諸国に通じている。その、駅路という道を、役人が鈴を鳴らして馬を飛

   ばし、文字で記された天皇の命令を遠国の国府へも、幾日もかからずに届け

   る。

      大邸宅や大仏や駅路を作る技術・知識って、大変なものなのだろうと、オレ

   は思ったよ。稲作りには暦の知識が欠かせないが、それももとはと言えば、西

   の方から伝わったものらしい。オレたちの田は、大きな川の畔(ほとり)扇状地

   に作られている。ヤマトでは川から遠い平野にも、長い水路やでかい溜池を作

   り、田を開いているのだそうだ。

      どうしてヤマトにはそういう知識や技術があって、オレたちにはないのか、口

   惜しい気がしたな。一番不思議だったのは、大きな造作に必要な何万、何十万

   人もの人を、どうやって集めるのか。その人たちの食い物をどこから調達する

   のか、ということだった。

      当麻はこう説明してくれた。陸奥国の柵戸は違うけれど、ヤマトでは一戸が

   大体二十人。五十戸の千人が郷になる。郡はほぼ二十の郷の集まりだ。国府

   が郡をまとめ、朝廷にある政府が、すべての国を支配している。

      文字があるからできるんだが、戸籍というものがある。どの家には働ける男

   や女・子ども・年寄り・奴婢が、それぞれ何人いるか記録され、郷から郡家・国

   府・政府へと報告される。政府はそれをもとに、田を割り当て、賦()の割合を

   決め、労役・兵役を課す。だから、膨大な人数を集め、その食い物を賄えるの

   だ、と言う。

      オレは思った、大人数がまとまるから、でかい造作ができるし、知識や技術

   も進むんだな、って。羨ましい気がしたよ。エミシの部族は何十人とか何百人と

   かだ。共同作業はそれぞれの集落がてんでに決める。部族を超えて、大きな

   事業をする仕組みなんか、まったくない。

      当麻に説明されても、腑に落ちないところが残った。オレたちの部族は、お

   互い気心の知れた仲間の集まりだ。相手の気持ちがわかるから、みんなが集

   まって物事を決められる。ヤマトは郷でも千人だろう政府がまとめている人

   数は、何百万人にもなる。気心の知れない相手、会ったこともない相手と、どう

   やって気持ちを一つにできるのか、分からなかった。  (この章続く)