美瑛の夏景色


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   6月末日の美瑛です。北海道のほぼ真ん中。馴染んでいるオホーツク地方や釧

路・根室地域とは、少し雰囲気が違います。見える山は知床連山や斜里岳ではな

く、十勝岳富良野岳などの大雪山系の一部です。何よりも暑くて。

  何やら名前の付いた樹がたくさんあります。ずいぶん大きなのも。丘は美幌にも

網走や小清水にもあるけれど、海や湖が近いだけに、美瑛ほどには広がりがない

かな。美瑛の丘をテーマにした写真は、またそのうちにアップします。


                            小説 縄文の残光 96
 
               燃える森 (続き)
 
   基地の小屋で寝ていたアテルイは、燃える木の臭いで、目が覚めた。基地の

在処を敵に知られないように、焚火は夜の間と申し合わせている。もう、丸太を

並べた壁の隙間から、明るい光が差し込んでいる。焚火ではない。

   慌てて外に飛び出した。周りの斜面に何本も煙が上がっている。小屋から次

々、仲間の戦士が飛び出してくる。森を焼くなど、エミシなら決して考えない。森は

精霊の住処であり、自然の尽きることのない食糧庫である。みんな呆然としてい

る。われに返ったアテルイが叫ぶ。

    「火が来るぞ。みんな逃げろ。他人に構うな。どこで敵が待ち構えているかわ

からない。自分で思う方へ、てんでに走れ」

   東の沢に向かった男たちに、対岸の崖上から矢の雨が降って来た。岩壁の高

さは十尺(3メートル)ほどだが、急峻である。両手両足を使わないと登れない。這

い上がろうとしては射落とされる。沢が屍で埋まり、血に染まった水が溢れる。

   西から迫る炎を避け、峠を越えて東に山を下る一団もあった。下りなら、灌木

や笹の中でも直線的に進める。それでも坂が終わるまで、四里はある。ようやく

森を抜けて荒れ地に出ようとすると、ヤマトの弓隊が立ちはだかった。エミシは走

り下りるのに夢中で、藪に引っかかって邪魔な弓を手放している。蕨手刀を振り

上げて突進し、射倒される者。森に戻って煙にまかれたり、炎に焼かれたりする

者。森を焼かれた怒りで、誰も投降など考えない。東に向かったエミシ戦士は全

滅だった。

   アテルイとモレは、沢伝いに北西に向かう一団の中にいた。崖上の弓兵を警戒

し、西岸の林を進んだ。やがて狙撃の隊列もなくなる。次第に谷川の水量が増え

る。火の粉が近くの林床に飛来して炎が上がれば、対岸の岩陰を行く。風が北寄

りに変わり、前方の林には火が広がらなくなった。一行は待ち伏せを警戒し、周

囲を探りながらゆっくり谷を下る。

   燃え上がる森の上昇気流が雷雲を呼んだのか、西空に稲妻が走り、やがて激

しい雨になった。敵の存在に気付いたのは、エミシの方が先。もう火の心配はな

い。谷川を辿るのをやめ、東の稜線を越え、北に回り込んで和賀川の畔(ほとり)

へ出ることにした。待ち伏せの兵は、森に入ったエミシを追おうとはしない。

   和賀川は、ヤマト軍の営地から北へ三里のところで、北上川に合流する。敵本

営から十分に離れてはいるが、それでも用心して、夜を待って北上川を渡った。

先ほどの雨で、いくらか川は増水している。だが常日頃なじんでいる流域のこと、

どこが浅瀬で、どこに岩があるか、暗闇でもわかる。一行は無事東岸に達し、北

上高地の山中へ急いだ。  (この章続く)