緑の岬


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   夏は他に気になるところが多く、能取岬にはあまり行きません。でも、流氷やオジ

ロワシが見られない緑の岬も、歩けばやはり楽しい場所です。


                               小説 縄文の残光 95
 
                燃える森 (続き)
 
   本営の丘から西に一里ほどで水田地帯が終わり、荒れ地になる。その先の緩

やかな斜面から、奥羽山脈の傾斜が始まる。地図ができた日から毎日、兵の半

数を動員し、荒れ地の木と草を刈り取らせた。木は陣の東側に積み上げ、草は

干して袋に詰める。梅雨が明け、乾いた日が続いていた。エミシの襲撃に備え、

残りの兵は山裾を包囲するようにして見張る。

   糧食庫が焼かれてから、夜襲はなくなっていた。その代り、朝明るくなってから、

山を下りて攻撃してくる。明らかに追撃を誘って、山間の戦いに引き込もうとして

いる。防御に徹し、追撃するなと命じてある。

   狙い通りに、敵は荒地に城柵を築こうとしていると、思い込んだようだ。迂回し

て、東側の材木の山に火矢を射かけるようになった。だが周りの警備は厚い。平

地に姿を現せば、騎馬隊が出動して蹴散らす。森と違って見通しがよく、騎兵は

縦横に駆け回れる。山に籠った敵に馬はないようだ。あっても、道のない森を騎

馬隊は通れないはず。

   荒れ地は草木がなくなり、裸地になった。次は、山裾の森に兵を入れ、厳重に

防御態勢を敷き、立ち木の伐採を始める。エミシの弓は遠くまで飛ぶが、立ち木

や藪に矢を遮られる森では、たいして威力がない。突撃してきても、こちらは圧倒

な兵力である。固まって防御し、その中で伐採しながら、じりじりと西の山中へ

む。あまり幅を広げず、峯と峯の間を縫うようにして、奥へ奥へと木を伐り、藪

を切り開いて、材木を運搬する道を作る。

   十日で三里登り、山並みの取り着き口に達した。駐屯地からここまで、軍を進

める道ができたのである。敵本拠地を目指していると悟られないため、南へ逸れ

るように進んできた。尾根伝いなら、いくらか行軍が楽になる。

   いつも日が傾くと幕舎に引き揚げ、朝になって山に戻っていた。どこかで見張っ

ている敵も、兵が下り始めれば、基地に戻るはずだ。

   その日の夕方は兵の行動が違った。幕舎に向かう途中で、登ってくる輜重隊

に出会い、糒と枯草の袋を受け取り、来た道を引き返す。山林隊の先導で尾根

筋に出ると、五千は右に進んで、敵基地の東側にある沢の対岸の崖上に潜ん

だ。一万は左に進み、基地の十町(1.1キロ)ほど南で、西に伸びる尾根に展開

した。残りの一万は、基地から北西に流れる谷川が二里ほど下って、緩やかな

台地に差しかかるところで待機。

   日の出前、空にわずかに明るむのを合図に、尾根筋に並んだ兵が一斉に、火

をつけた干し草袋を、基地方向の斜面に投げ落とす。風は南西だった。

   人の手が入らない森には、青々と茂る草木の下に、枯枝や朽ちかけた倒木が

重なっている。梅雨が終わって半月、林床は乾いている。枯れた草木に炎が上が

り、やがて生木も燃えはじめる。針葉樹は脂が多いので、青葉でも火勢は強い。

   田村麻呂は山の民から、山火事は春先に多いが、盛夏にも落雷などで、森が

燃えることもあると聞いて、火攻めを思い立ったのだった。稜線の一万の兵は、

森が燃えはじめたのを確かめ、急いで山を下りた。陣の西に作った裸地の端で、

火に追われたエミシを討つことになっている。 (この章続く)