エゾノシシウド


   そらさん、日程が決まっている旅は不自由ですよね。わたしは天気予報と美幌の

空を見て、その日にどこへ行くか決めます。摩周湖なら青い湖面、花、霧、氷雪の

何が目当てかで、季節と天気を選びます。それでも失敗することもありますが。

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   オホーツク海側の6月後半から7月前半まで、太平洋側の東部では8月まで、

海岸草原でよく見かけるセリ科の花です。海岸に咲く似た花に、エゾニュウ、エゾ

ノヨロイグサがあるので、上の写真にも混じっているかも。ハマボウフウの花も少

し似ていますが、これは砂浜の植物です。他にも、海から離れた場所には、同じ

ような印象のセリ科植物が何種類もあって、わたしは名前の同定をあきらめてい

ます。


                 小説 縄文の残光 94
 
      燃える森 (続き)
 
   六月に入った。その夜火矢は飛来せず、警備兵は交代でまどろんでいた。暗

い森から突然二、三百人の敵が湧いて出た。まっしぐらに倉庫めがけて突進し

て来る。見張りが、寝ている仲間を起こそうと叫び声をあげ、弓を取って矢を射

る。すぐに槍と刀の乱戦になった。

   そのうち二、三人のエミシが乱戦を抜け出し、倉庫に松明を投げ込む。大き

く燃え上がる炎。もう消火は間に合わない。エミシが固まって森に駆け込む。田

村麻呂はあらかじめ、追撃を禁じていた。暗い森から勝ちどきが響いてくる。後

には、百五十ほどの、兵とエミシの死骸が残されていた。

   夜が明けると直ちに、田村麻呂は山林隊を招集した。

    「昨夜の敵は、追撃がなかったので、安心してまとまったまま引き揚げたよう

だ。大勢が通れば、踏跡が目立つだろう。警戒網に捉えられないように用心しな

がら、敵の本拠地を探せ。何日かかってもいい、見つかるまで戻るな。腹が減っ

ても獣を狩ってはならん。残骸や血の跡を見れば、探索に気づく。できるだけ多く

の糒(ほしいい)を携行せよ」

   二日たっても三日たっても、探索隊からの報せはない。田村麻呂はじりじりしな

がら待った。六日目、隊を束ねる男が、ついに田村麻呂の幕舎に現れた。まだ梅

雨は明けきっていない。木の下で濡れながら耐える日もあっただろう。疲れ切って

はいるが、表情は明るい。

    「見つかったか 見つかったのだな」

    「はい、ここから少し北に寄った西の方角になります。根曲り竹の密生する藪

や崖を回り込んで、六里半(26キロ)ほど登った山奥です。小高い台地に、杉の

葉を屋根にした、杣小屋のような建物が散らばっていました。その数は二百を超

えます。女・子供はおらず、出入りしているのは男たちだけです。出撃のための

前進基地でしょうか」

    「よくやった。大手柄だ。戦いが終わったら、位と褒賞が得られるようにしてや

る。だが今はまだ、これからやってもらうことがある。今日はみんなを休ませ、明

日から再び山に戻ってくれ。周りをよく調べ、地図を作るんだ。」

   半月ほどで地図ができた。四方を三、四百丈(900メートル、1200メートル)

どの山に囲まれている。小屋が散在するのは、縦二町(220メートル)、横三町ほ

どの台地である。その東側が沢で、対岸は崖になっている。沢が流れ下る北西

方向に、くねりながら狭い谷が伸びている。

    「夜の間に尾根筋に兵を配置したい。どうだ、お前たちは、松明なしに兵を導く

ことができるか」

    「さんざん歩き回ったので、登りやすい道筋の見当はつきます。だけど、よほど

山に慣れた者でないと、一晩で六里半を進むことはできません。前日に尾根の取

つき口まで行ければ、夜の間に尾根まで案内します」

    「よし、それでいい。」  (この章続く)