エゾスカシユリ


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   ゼンテイカやエゾキスゲは黄花ですが、エゾスカシユリは赤みがかったオレンジ色

です。写真は濤沸湖とオホーツク海の間にできた砂洲のもの。先の黄花はいずれ

も海岸草原の花ですが、エゾスカシユリは内陸にも広がっています。今の時季に車

を走らせていると、海から離れた道路際や山道の斜面などでもよく目にします。花

期も長く、8月の海岸草原では主役です。スカシユリという名前通りに、花びらの付

け根に隙間があります。


                              小説 縄文の残光 85
 

                  登米・栗原の戦い(続き)

 
   こちらは歩兵隊を併せても千三百。三万余の敵と正面からぶつかるのは無謀

だ。やむをえず、騎馬戦士を撤収させ、南下する歩兵隊に合流し、胆沢に引き返

すことにした。

   追撃も予想したが、敵は来なかった。軍粮を失ったこともあり、胆沢に引き込ま

れ、戦闘が長引くことを恐れたようだ。もともとヤマト側には、伊冶城奪回前に、東

隊単独で胆沢を攻める計画はなかったのだろう。

   アテルイは口惜しかった。もう少し早く到着していれば、副将軍二人を討ち、東

隊を壊滅させられた。そうなれば敵は意気阻喪する。攻城戦の兵数が半減すれ

ば、伊冶城を守り抜くこともできる。軍船団を沈め、舟運による補給は断った。だ

が栗原までは、官道を使って陸送できる。敵兵の数もほとんど減っていない。伊冶

城防衛戦は、きっと困難なものになる。

   それでも、登米エミシの救援は後悔しなかった。騎馬戦士がこぞって賛同してく

れ、しみじみ嬉しかった。伊冶城の戦いがどん結果になろうとも、生きている間は

生きて、死ぬときは死ぬだけのこと。自分の部族、そして共に戦う部族が、エミシ

して生残るために、できることはすべてやる。だがそのために、目の前で危機に

瀕している仲間を放置するなど、とてもできない。そんなことをしたら、エミシがエ

ミシでなくなってしまう。

 
   モレを伴い、無事家に帰った夫と兄を、パイカラは兎肉を煮てねぎらった。男た

ちが戦いに出ている間、猪や鹿は仕留められないが、兎なら女・子どもでも罠で

獲れる。五月(陽暦6月)末のこと、蕨や山ウドは終わっている。だが森には、夏の

食草も少なくない。鍋には、ミズ(ウワバミソウ)やヤチブキ(エゾノリュウキンカ)が、

たっぷり入っていた。山椒で香りも付けてある。

   エミシ戦士の携行食は、乾肉や木の実の粉を焼いた固い団子である。軟らかく

煮込まれた肉、皮を剥かれ、歯ざわりのいいミズの茎は、家なればこそ。ヤチブ

キのわずかなほろ苦さが、濃厚な肉の味をまろやかにする。そして、肉の旨みと

野草の風味が溶け込み、山椒が香る温かい汁。男たちは争うように掻き込んだ。

 オマロが膨れ上がった腹を撫でているモレに、河畔の戦いの経過を話す。それを

  聞いて、モレがアテルイに言った。

    「そういう訳で、お前はオレと歩兵隊が戦う機会を奪ったのか。まあオレでも、

登米の衆を助けには行ったよ。だけどお前みたいに、戦士たちにどうするか尋ね

たりはしないな。すぐさま号令をかけて飛び出していただろうよ。

   ところでお前ほどの知恵者が、どうして五十騎ほど助けに行かせ、残りで船着

場へ急行しなかった?そうすりゃ、作戦通りにいったかもしれないのに」

    「護送兵が本隊から離れたって分ってたら、オレもそうしたよ。だけど、登米

衆は、二千からの敵が居ると言った。だから、騎馬隊を分けるより、全騎で蹴散ら

そうと思ったんだ。二千を相手に五十じゃ無理だ」

    「護送兵を殺さなかったのも失敗だな。もっとも、無抵抗な敵を殺すなんて、お

前にははなから無理だよな。みんなの気持ちを聞いてから行動するのもそうだけ

ど、お前のそういう気性が、部族を超えて、身の周りに戦士を集めるんだよ。シス

カイレの一族や志波のナタミ衆も、お前の傍を離れやしない。今回栗原と同盟で

きたのも、お前がいたからだ」  (この章続く)