田園の緑
一歩郊外に出れば、目に快い緑が広がる季節です。初めの三枚は町内の田園
風景。後の三枚は海に近い小清水丘陵地の田園。朝の美幌は曇りでした。昼近
い帰路の小清水は青空が広かっています。どちらの緑も魅力的です。
小説 縄文の残光 83
「大変な目に遭いましたね。このまま北へ進んで、胆沢へ行ってください。すぐ
にオレたちを追って南下する歩兵隊に出会います。そこまで騎兵を二騎付けま
す。その者が訳を話し、護送兵を出してもらいます。胆沢で部族を再建すればい
いですよ」
開放されて喜ぶ登米の人々に見送られ、馬上の戦士団は再び船着場に向か
って疾走した。北上川のきらめきが見えてくる。エミシの舟隊が、既に戦いを始め
ていた。ヤマトの軍船三十艘ほどが、船着場の少し下流に停泊している。そこへ
流れに乗ったエミシの小船が急接近し、火矢を射ては素早く離れる。軍船には三
十人の漕ぎ手の他に、五人の戦闘員が乗っている。
エミシの小船は動きが速い。二人の漕ぎ手に一人の射手。流れや川底の様子
を知り尽くし、縦横に動き回る。応戦する戦闘員の矢は、空しく川面に吸い込まれ
る。既に何艘かは炎に包まれている。エミシ船を追って浅瀬に乗り上げたり、水面
下の岩に座礁したりする軍船もある。
船着場から下流にかけて、西岸にはヤマトの弓兵がそれぞれ三千人ほど、前
後二段に分かれて展開している。エミシ船が近づこうとすれば、前列が矢の雨を
降らせる。胡ぐい(やなぐい=腰に吊るす矢入れ)が空になると、素早く後段と交代
し、矢を補給する。それを繰り返しているので、火矢隊は、岸近くに避難する軍船
に接近できない。
船着場では二艘の軍船が荷揚げの最中。十艘が順番を待って待機している。
桟橋から五町(550メートル)ほど西の高台まで、二筋の人の列が動いている。
一列は荷を担いで高台に向かい、もう一つは荷を下して桟橋に戻る。
状況を見て取り、アテルイは四百騎を川岸の前段弓隊に突入させ、自分は百
騎と共に高台に駆け上がった。完成した貯蔵庫が二つ。まだ天幕は張られてい
ないが、地面に固定した丸太の上に床が張られ、荷が積み上げられている。十
間(約十八メートル)四方ほどの広さだろうか。他に、作りかけの倉庫が数箇所。
護衛兵は戦いが始まった川岸へ下りた。残っているのは、倉庫と宿泊場所を設
営している輜重兵だけ。
一帯は、伊冶城の包囲が始まれば補給基地に、その後は胆沢攻撃軍を支え
る舟運拠点になるはずだった。エミシ騎馬隊が、輜重兵を蹄に掛け、騎射し、蹴
散らす。付近に敵がいなくなった。鞍の後ろに付けた革袋の油を、荷の上に振り
撒く。火が放たれた。 (この章続く)