海岸草原のゼンテイカ


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   正式な和名はゼンテイカ。日光・尾瀬霧ヶ峰などの高原ではニッコウキスゲ、関

東の低地ではムサシノキスゲ、北海道では主にエゾカンゾウと呼ばれているようで

す。地域によってはいくらか違いがあるのかもしれませんが、基本的にはユリ科

スレグサ属の同じ種。

   北海道では海岸草原の代表的な花です。呼び名にカンゾウが用いられるのは、

よく似た別種にエゾキスゲがあるから。一本の茎の先端に複数の花があるのがゼ

ンテイカで、枝分かれしてその先に一つの花があるのがエゾキスゲだそうです。で

も、この基準では紛らわしいことも多く、こちらに来たばかりのころは、なかなか見

分けられませんでした。

   今は何となくわかるような気がします。ゼンテイカ花の色が少し赤みがかって

いて、エゾキスゲはもっと明るい黄色に感じられます。もっとも、一輪だけ差し出さ

れたら、判断できないかも。先週土曜日、能取岬ではゼンテイカ、小清水の海岸

草原ではエゾキスゲが咲いていました。サロマ湖畔のワッカ原生花園では、両方

が見られます。


                                   小説 縄文の残光 81
 
                  登米・栗原の戦い
 
   全将兵多賀城に結集してから二ヶ月間、厳しい訓練を繰り返した。そして五

月半ば、いよいよ発進である。軍を二手に分けた。東隊三万余を多冶比浜成と巨

勢野足が率い、北東の登米(とよま)に進む。伊冶城の東約四里、北上川西岸の

船着場を見下ろす高台に、東隊の本営を置くことになっていた。舟運で軍粮を輸

送し、北上川から栗原まで制圧する。伊冶城を奪回した後は、胆沢へ北進する軍

の補給基地になる。

   西隊は、田村麻呂と百済王俊哲が指揮し、黒川・色麻の駅を経て玉造砦に進

む。ここが西の本営になる。栗原地域から奥羽山脈までのエミシ集落を掃討し、

東隊の合流を待って、伊冶城を包囲する計画だった。

   軍粮を積んだ六十艘の舟隊が、陸路を行く巨瀬・多冶比隊に遅れないように

と、多賀城から海を回り、北上川を漕ぎ上っている。同じころ登米に向かって、西

沿に南下する騎馬隊があった。数はほぼ五百。

   間近で見れば、各騎がてんでばらばらに走っている、と思ったかもしれない。だ

が、騎馬の戦いを知る者が高台から俯瞰すれば、よくまとまった二十騎から八十

騎までの集団が、後になり先になり疾走しているのだと分っただろう。それぞれの

隊が横に展開したり、縦列になったり、散開したり、自在に形を変化させている。

   先頭を行くのはアテルイ。集落単位の分隊ごとに、馬の能力を揃えた。くらしを

共にする部族内部は、誰が何を考えているか言葉がなくても互いに分る。ほとん

ど合図を待たずに、指揮者の意図が全騎に伝わる。だから馬の能力が揃えば、

分隊はみごとにまとまる。

   分隊間の意思疎通の訓練に二年。今ではアテルイの合図で、素早くさまざまな

役割を分担できる。行軍は最も遅い馬に速度を合わせていた。先に行き過ぎた

り、前が見えないほど離れたりはしない。だが全体としては、隊列を組まず、分隊

ごとに自由に駆けている。

   騎馬隊の他に、舟団が川を下っていた。数日前遠田村の俘囚が、密かに報せ

てきた。六十艘ほどの軍船が北上川を漕ぎ上り、登米に軍粮を運ぶという。遠田

登米の南である。既に恭順し俘囚村になっているが、その前は海道荒エミシの

拠点だった。今もヤマトに反感をもつ者は少なくない。その一人が胆沢に駆け付

けた。もともとは、労役で多賀城に詰めている村人が伝えた情報だった。

   アテルイは、百艘の小舟で軍船を沈めるつもりだ。騎馬隊は船着き場と設営中

の本営を襲う。岸から舟隊を援護するとともに、荷揚げされた軍粮を焼く。そして、

後続の歩兵隊と合流し、到着する敵を次々壊滅させる。敵は三万を超す。道幅は

広くない。先頭が到着してから最後尾が揃うまで、半日はかかる。陣立てが整う前

の、乱れに付け込む。

   巣伏の戦いから五年。その間、胆沢と栗原は連絡を取り合いながら、次の決戦

に向けて準備を重ねてきた。数では圧倒的に劣勢だとわかっている。だが、個々

の戦士の戦闘力は敵よりはるかに上。馬の能力も騎馬術もこちらが勝る。そし

て、熟知している森と川を味方にできる。

   前回は、敵を分断し、戦士を埋伏させた森近くの狭間に誘い出し、乱戦に引き

込むことができた。同じ作戦は、敵も警戒して乗ってこないだろう。ならば、騎馬隊

と舟隊の役割が重用になる。そう予想し、騎馬隊五百、舟隊百を揃えた。焼き討

に使う油や火矢の蓄えも十分である。  (この章続く)