アカシアの花房


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  道が街中を抜け、郊外の丘にさしかかると、左右の木立に垂れるアカ


シアの花房が目につきます。街路樹として植えられているのは主にナナ

カマド。白樺もたまにありますが、こちらでアカシアが使われることはまず

ありません。

  旺盛に繁殖する外来種です。林の中を藪漕ぎするときには、棘だらけ


の枝に悩まされます。手入れの行き届く林や路傍では、若木のうちに容


赦なく伐られます。


  それでも、町はずれの土手や耕地と道路の間など、人手の入らない場


所がたくさんあります。成長が速いので、そういう場所では、いつの間にか


大木になっています。


  見慣れている土地の人が、わざわざ車を停めて眺めることはありませ


ん。だけど、茂る若葉を背景に無数の花房が垂れさがる様は、なかなか


見事です。間近に寄れば、花もけっこうきれいです。短い花期をうっかり


見逃した年は、何か失敗したように気分が残ります。



                              小説 縄文の残光 80
 
                田村麻呂(続き)
 
   田村麻呂の訓示は差続く。

    「我が軍は十万、エミシ軍は多くても二千五百と思われる。だが五年前、三万

を超す戦闘部隊を擁しながら、たった千五百ほどの蛮族に、さんざんに打ち破ら

れた。なぜか。東岸の四千と西岸の残余の軍に分断され、本営から東岸に指令

が届かなかった。四千の兵は、エミシの誘引策に乗せられ、隊伍を乱して追撃し

た。そして待ち伏せに遭い、乱戦に引き込まれ、大敗を喫したのだ。数の優位が

生きるのは、全体が一つの体のようにまとまって、各部隊が手足のように統制の

取れた動きをしてこそ。

   前回は実戦経験の乏しい軍団兵も混じっていた。今回我が軍の戦闘部隊は、

武器の扱いに慣れ、日ごろから武技の鍛錬を怠らない、諸君ら勇者から成る。

だが相手は、毎日野山を駆け、強弓で獣を仕留め、時には刀子一本で熊を倒す

ような日々を送る、獰猛な蛮族である。一対一の戦いで、奴らに勝てるなどと思う

な。

   統制の取れた集団戦、それこそが勝利の鍵である。今回は、兵の末端まで厳

しい軍規を徹底させて欲しい。鼓が打たれても突撃をためらう兵は、余が自ら斬

首する。同じ死ぬなら、一人でも敵を討ち、家族に地位と賜物を残すか、規律違

反で刑死し、一族に恥辱を残すか、覚悟を決めろ。

   また、鼓が鳴る前に先走って突撃した場合、どんなに功があってもやはり斬首

する。節刀を授けられた将軍は、軍士に死罰を与える権限がある。今回大将軍

は、多賀城に在って総指揮を執る。戦場での罰令権は副将軍に委譲された。余

は、どんな些細な命令違反、規律違反も、けして見逃さない」

   田村麻呂は訓練のとき以外の、気さくで親しみやすい気性と、身分に囚われな

い公平な対応で、将士に人気があった。それだけに、この厳しい訓示は、軍全体

の気持ちを引き締めた。


   田村麻呂にとって天皇は、万民を国家に統合する要である。その命令を最も

効果的に実現する軍事行動の立案と実行、それこそが武人である自分の本分だ

と、明快に割り切っていた。明快な割り切りの前提は、天皇の決定の正当性を問

わないこと。正当性を保証するのは、権威である。権威が順次下に委譲され、序

列秩序になる。自分は情の深いところがある。だがそれで、軍事を歪めてはなら

ないと、自戒していた。秩序は、上位者の命令は何があっても遵守することで保た

れる。それが田村麻呂の信念だった。 (この章終わり)