ミツガシワ


イメージ 1

イメージ 2

イメージ 3

イメージ 5

イメージ 4

   釧路湿原のミツガシワです。寒冷地に多い花です。湿地や浅い水中で、横に伸

ばした茎で増えるとか。穂の下から順に咲き上ります。わたしは咲く前の、薄い赤

みを帯びた蕾が特に好きです。まだ早すぎるか、もう遅すぎはしまいかと、毎年や

きもきながら、天気予報をにらんで、出かける日を決めています。


                                  小説 縄文の残光 69
 
                    巣伏の戦い(続き)
 
   二里(8キロ)ほど進んで、田茂山の麓に差し掛かったときだった。前方で三百人

ほどが弓を構えて並び、川岸から林までの平地を塞いでいる。

    「止まれ、楯!」

前列は楯を垂直に並べ、次の列は頭上にかざす。

    「進め!」

   じりじり前進。やがて、エミシの放つ矢が楯に届きはじめる。

    「弓、構え、放て」

楯の隙間から、おびただしい数の矢が空へ飛ぶ。弧を描いて、何本かは敵前方

一尺(30センチ)ほどの地面に突き刺さる。そのとき一人の男がエミシ隊の前に

出て叫んだ。

    「オレは田茂山のアテルイ。エミシの総大将だ。首を討って手柄にしろ」

言い終わると、引き絞った弓から矢を放つ。その矢は、ヤマト隊最前列中央の兵

が構える楯を貫いた。

    「怯むな、前進」

鼓が打たれ、再びじりじり進み始める。やがて、一本、二本と、ヤマトの矢が届き

はじめる。集団後列のエミシが数人、背を向けて走りはじめた。それに引きずら

れたように、前方を塞いでいた壁が崩れ、壊走が始まった。鼓が激しく打たれる。

追撃。今こそ手柄を立てるとき。鉾をかざし、剣を抜いて走る。なかなか距離が縮

まらない。だが開くこともない。

   しだいに追走の隊列が崩れる。先行する五百人ほどが、田茂山の北二里半(5

キロ)ほど地点、巣伏(すぶせ)に達した。西に北上川、東に山の、狭隘な地形で

ある。後ろは遅れ、三百町(327メートル)ほど間隙が開いた。そこで突然、敗走し

ていたはずのエミシが立ち止まって振り向き、近づく先行隊に矢を射かける。

   その後ろから、数十騎の騎馬兵が飛び出した。騎射しながら五百人の間に突

進する。蕨手刀を振り回して駆け抜け、そのまま後続部隊に飛び込んだ。ヤマト

の直刀は刺すことが主である。エミシの蕨手刀は反りがあり、斬るための武器で

ある。騎馬戦では、ひときわ威力を発揮する。

   前方のエミシは、いつの間にか千百を超えている。ヤマト隊の後方で退却の鉦

が打たれた。まるでその音が合図だったかのように、林から新手のエミシが飛び

出し、退路を塞いだ。四百人はいる。敵味方入り乱れ、乱戦になった。エミシは山

で獣を追う毎日で、筋力が鍛えられている。ヤマト兵は腕力も持久力も、エミシ戦

士に数段劣る。その上、渡渉、行軍、追撃で疲れている。死傷者がしだいに増え

ていく。  (この章続く)