うろこ雲


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   北海道東部で、建物や人の密集する都会らしい都会は、釧路と北見くらい。道

路も、この二つの市街地を除けばほとんど、渋滞するほどには車が集まりません。

そして、大きな工場地帯もないので、たいていどこも空がきれいです。それでも、

街の中より、海岸や山地にいるときのほうが、雲を撮りたくなります。視界が広い

からかな。今日の写真は、五月の摩周湖第三展望台で見上げた、空の四方です。


               小説 縄文の残光 68
 
                    巣伏の戦い(続き)
 
    「海道衆の援軍は期待できなくなったな」

   沈黙を破ったのは、胆沢の族長オハツペ。エアチウが戻って来た。ヨシマロを近

くの小屋に寝かせ、オマロとパイカラに世話を任せたのだ。アテルイは、ようやく内

心の動揺を押さえ込み、静に話しはじめた。

    「間に合わないかもしれないが、海道の仲間を援けに行かなくては。最悪でも、

東から来るヤマト軍に、山を抜けさせてはならない。オレが・・・・」

    「お前はダメだ、ここに居ろ。志波の五百人と一緒に、オレが行く。残りの二百

人に他からも少し回して、予定通りの作戦でいけばいい。どんなことがあっても山

越えの敵は阻止する。その点は安心してくれ」

   そう言うエアチウの顔を、アテルイは覗き込む。「死ぬなよ」と、聞こえるか聞こ

えないかの低い声で。アテルイには、最も信頼する同志の気持ちが、自分のこと

のように分っていた。
    
   オマロは集会の後で、自分も連れて行けと、エアチウに談判した。

    「お前に頼みがある、オマロ。シスカイレに話して何人か仲間を集めてもらえ。

お前たちがアテルイを護るんだ。絶対に傍を離れるなよ。奴は一番危険なところ

に身を置きたがる。アテルイが死んだら、部族を超えたまとまりが消える。そうな

ったらエミシは終わりだ」

   父のように慕っていた族長が、最も危険な任務に赴こうとしている。一緒に行き

たい。だがエアチウの心配もよくわかる。引き受けないわけにはいかなかった。
 
   渡渉隊六千人の編成が終わった。指揮するのは、丈部善理(はせつかべのぜ

んり)などの下士官。軍の上級将校は、将軍、副将軍、軍監(ぐんげん)、軍曹であ

る。だが、その誰一人、渡渉はしない。善理は外従七位下で、もともとは百人か五

百人の小部隊の長だった。他の指揮官には進士が多い。律令政府の学生寮で学

ぶ地方豪族の子弟で、出世の機会を求め、今度の征夷に志願した者たちである。

編成されたのは混成部隊。ほとんど連携行動の訓練を受けておらず、指揮系列さ

えあいまいだった。

   五月二十五日の早朝、渡渉が始まった。北上川に、ダムや人工湖がなかった時

代である。中流域の胆沢では、いくつものの支流を併せ、今より流水量が多い。川

幅が狭い箇所は深く、船がなければ渡れない。船は浜成隊に回したので、中・後軍

の四千人は、川が広がるところで、浅瀬を探りながら渡渉した。ときには胸まで水

に浸かりながら、半時(1時間)ほどで、全員無事に東岸にたどり着いた。軍装を正

し、隊列を整え、川沿いに北上を開始する。途中で集落を一つ焼いた。(この章続く)