コツマトリソウ


   そらさん、白い山とカラマツの浅緑ですね。一年のうちで、この時季だけ見られる

風景です。

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   ツマトリソウは林に生えるけれど、その変種であるコツマトリソウは湿原の花だ

とか。6月6日の釧路湿原温根内遊歩道では、原を行く木道の左右に点々と咲い

ていました。大きな群れにはなっていません。一輪だけ、多く集まっていても、10を

超えることはなかったと思います。1.2センチほどの小さくて可憐な花です。


                              小説 縄文の残光 67
 
                  巣伏の戦い(続き)
 
   アテルイは、それぞれの営を見張る偵察兵から、慌しい動きが見えると報告を

受け、田茂山の集会所に待機していた一同に話しかけた。族長たちを遠巻きにし

て、詰めかけた大勢の男や女が見守っている。

    「いよいよ敵は動き始めるようだ。なーに慌てることはない。部隊の編成、点呼、

訓示と、だらだら時間をかけ、渡渉が始まるのは早くても二日後だろう。女たちが

用意した山の隠れ家に逃れ、男たちがそれぞれの部署に就くのは、明日の夕方

でいい。敵はうまくオレたちの仕掛けに嵌ったようだ。広い平地が広がる西岸の正

面衝突なら、向こうが有利だ。兵の数は二十倍に近く、楯を揃え、鼓と鉦で整然と

進退する訓練ができている。川と山に挟まれ、平地が狭い東岸に誘い込み、分断

し、不意打ちを食らわせれば、こちらのものだ。できるだけ多くの兵が渡渉してくれ

るといいのだが。

   オレたちが今度の戦いで何を狙っているか、もう一度確認しておきたい。敵を退

けることだけが目的ではない。できれば十年や十五年は回復できないほど、徹底

的に消耗させたい。東岸から追い落とした後、本営は敗走する兵が雪崩れ込ん

で混乱する。そこに附け込んで、本営はもちろん、できれば玉造塞まで追撃して

壊滅させたい。

   軍団兵は陸奥・出羽の百姓だ。徴募兵は坂東の豪族どもだ。殺さなくてもいい。

奴らに、もう二度と戦う気にならないほど、恐怖心を植えつけよう。郷里に戻った兵

たちの、怯えた無惨な様子は、周りの人々を動揺させる。兵糧や武器・甲冑は何

一つ持ち帰らせるな。再び一から大規模な物資徴発をすれば、人々は征夷を厭

い、政府を怨むようになる」

   そこまで話したとき、騎馬の男が広場に駆け込んできた。馬も人も疲れ切ってい

る。這うように集会所にへたり込んだのは、ヨシマロだった。咳き込みながら、途

切れ途切れに話す中身を繋ぎ合わせると、こういうことだった。

   征東副使の多冶比浜成が、おびただしい数の船に兵を乗せ、多賀城から海に

漕ぎ出した。気仙沼あたりで上陸し、一帯の海道エミシを制圧する。さらに、山越

えをして、胆沢エミシを背後から襲い、北上川西岸の部隊と挟み撃ちにする計画

らしい。奴婢として城に入りこんでいた仲間が、ようやく昨日掴んだ情報だった。

   エアチウが隅にいたオマロを呼ぶ。二人が、気を失いかけたヨシマロを抱えて

集会所から出ると、あたりは静まり返った。  (この章続く)