姫海芋


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  姫海芋(ヒメカイウ)の自生地は、東北や北海道などに、6、7箇所あるだけのよう

です。わたしは釧路湿原以外で見たことがありません。氷河期の生き残りで、貴重

な植物だとか。

   自生するのは 林間の浅い水中や湖畔で、ここ温根内遊歩道でも、低い木々が

り、冠水しているあたりにだけ咲いていました。花の形は水芭蕉のミニチュアみ

ですが、咲き方は疎らです。茎や葉の高密度な群生はあります。だけど、花をつけ

茎はわずか。種より水中を横に広がる根で増えるのでしょうね。 


                              小説 縄文の残光 66
 
                巣伏の戦い(続き)
 
   真実を含まない真っ赤な嘘より、九の事実に一の偽りを混ぜた灰色の嘘の方

が、人は騙されやすい。偽計を指示したアテルイは、それを知っていた。エミシに

しては人が悪い。

   下士官の報告が古佐美に上げられ、多賀城の市に来るエミシの噂を集めるこ

とになった。そして、田茂山につながる山地で、大勢の武装したエミシを見た者が

いることがわかった。直ちにこの情報が、衣川の本営に送られた。

   だが現地司令部は、届けられた情報に疑いを持った。渡渉している間に西から

左岸の陣を攻められ、退路を断たれることを恐れたのである。作戦がなかなか決

まらない。五月に入って葛城が没したことも、現地の決定を遅らせた。いたずらに

時が流れ、兵糧が減り続ける。

 
   多賀城では、自白した間諜が都に護送されることになった。一行が城外の市

(いちば)に差し掛かると、路傍の一画に人が集まって騒がしい。なにやら激しく

罵り掴み合う二人を、野次馬が取り囲んでいる。護送隊がちょうどその横に差し

掛かったとき、人垣が崩れ、五、六人が一行にぶつかってきた。人混みを抜け出

した役人が気付くと、手にした縄の先が切られている。護送中の俘囚も掴み合っ

ていた男たちも、姿が消えていた。

   直ちに捜索が行われ、二日後に山裾の森で、首のない男の死体が発見された。

逃げた間諜と同じ衣服を纏っている。エミシが報復で殺したと解釈され、護送失敗

の責任はうやむやのまま、一件が落着した。実際には屍は、鎮兵の密偵を勤める

俘囚だったのである。
 
   アテルイは、多賀城から逃れて来た間諜とトリたちを労った。

    「よくやってくれました。あなたたちの役目は終りです。もう向こうに戻らないでく

ださい。顔を知られたので危険です。あとは、相手が仕掛けに乗ってくるのを待つ

だけです」

 
   五月十二日ついに朝廷から、軍の滞留を厳しく責める勅が本営に届いた。前線

司令部は、それから何日か協議し、やむなく渡渉作戦を決定した。西からの攻撃

に備え、入間広成・池田真枚・安倍猿嶋墨縄は衣川に留まり、軍の主力は各営に

残す。渡渉部隊は、各隊からそれぞれ二千人を選抜して編成する。後・中軍の四

千が両軍の中間地点で北上川を渡り、東岸を北上し、前軍と合流する。前軍は田

茂山に近い浅瀬を探して渡渉する、という計画だった。   (この章続く)