一湖


   デジモナさん、ザビエル公園の緑に、新緑の気配が残っていますね。鹿児島の木

も、盛夏の猛々しさはこれからでしょうか。

イメージ 1

イメージ 2

イメージ 3

イメージ 4

   知床五湖の一つ、一湖です。撮ったのは五月一九日。他の四つの湖を間近で

見るのは、敷居が高くなりました。入園料を支払い、講習を受けたりガイドを頼んだ

りしなければなりません。一湖だけは、駐車料だけで、クマよけの電気柵に守られ

た木道から見ることができます。


   六月三日の美幌は、気温が37.2度に達し、観測史上最高を記録したとか。七月

ではなく、五月末から猛暑。なんだか変ですね。


                             小説 縄文の残光 62

 

                 風雲迫る (続き)
 
   二人が外へ出てから、ヌプリが説明した。

    「あの男、トリは、十三年前に下野の郷を抜けて栗原に来た。柵戸の郷に落ち

着いたんだが、奴は稲作りより狩が好きでな。しょっちゅうオレたちの所へ来て、

狩に連れて行け、川漁を教えろと、うるさくせがむんだ。まあ、山のことを知らない

わけじゃないし、気性もオレたちに似ているから、そのうち、半分仲間みたいな扱

いになった。

    アザマロの事件があって、柵戸はほとんど大崎平野多賀城あたりへ逃げて

行ったが、残った者もいる。トリはその一人だ。奴は言うんだ。今は賦役も公出挙

もない。威張りくさる郡司も郷長もいなくなった。自分たちが食う分だけささやかに

稲を作り、余った時間は、好きなだけ狩りや漁に出かけ、山菜や木の実を採って

いられる。まるで桃源郷にいるみたいだ。

   だけど、伊冶城に兵や役人が戻ったら、また物資を徴発され、力役や軍役に狩

り出される。もう二度とそんな目に遭いたくない。ヤマトの侵攻を防ぐため、できる

ことがあればやる、と。

   トリやその仲間は、逃げ出した柵戸と仲違いしたわけじゃない。その気になれ

ば、多賀城や玉造塞の近くにいる元の仲間に、迎えてもらえるんじゃないかな。そ

う思って今日連れて来たんだ。ところで志波のお人、さっきの若者もやっぱり下野

の者か?」

    「あんたはヌプリだったな。オレはエアチウだ、見知っておいてくれ。あの若者

も、ヨシマロという名だが、下野尻砂郷を抜けてきた一家の者だ。二人は親しいよ

うだから、トリが間諜の役を引き受けてくれたら、ヨシマロはつなぎが務まる」

   そこへトリとヨシマロが戻ってきた。

    「早かったな。もう話は済んだのか」と、アテルイ

    「いや、オレたちはどうやら同じ役目のことで、ここに呼ばれたらしいと分った。

それで知り人の消息や互いの苦労話は、今夜どこかでゆっくりすることにして、

今は皆さんの話を聞こう、ということになって」

    「それはありがたい、今夜はオレの家に泊まれ。妹を、ヨシマロ、お前の弟に取

られ、老いた母と二人だから、気の利いた食い物は出せない。だが、乾し肉と若い

者が持ってきた酒はある。邪魔はしないから、オレにもお前たちの話を聞かせてく

れ」

    「泊らせてもらっていいんですか。それでは、寄せてもらいます。ところで、お役

目の話はどうなりましたか」

   ヨシマロの問いに答えて、アテルイが今までの話を説明した。それから、胆沢の

長老・オハツペが、話を引き取った。

    「国府や玉造塞で俘奴婢として働かされている者の中に、オレたちと通じてい

る仲間がいる。ヨシマロは足が速いというから、その者たちと連絡を取ってもらえ

たら、大いに助かる。お前なら、身なりさえ変えれば、立派なヤマト人だ。下野の

言葉も話せるし、オレたちみたいに怪しまれないで済む。

   トリは南で、人が集まっている所に出向き、噂を流してくれないだろうか。一緒

に行ってくれる仲間を誘い、栗原で親しかった者の家に泊めてもらってだ。あん

たは、そろそろ五十に近いようだ。人付き合いで、いろいろな苦労もしているだろ

う。どう振舞えば怪しまれないか、知恵が廻るのではないかな」 (この章続く)