若緑の森

  
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   落葉樹に若葉の緑が輝く季節は、森歩きが一段と楽しくなります。写真は五月の

常呂遺跡の森です。若緑の木々の他に、遊歩道脇で、昼近い陽を浴びて輝くエゾネ

コノメソウと、小さな小さなフデリンドウが迎えてくれました。

   ネコノメソウにも何種かあるようですが、ここのエゾネコノメソウは、今まで見た中

で一番色が鮮やかな気がします。

   リンドウと言えば秋を思いますが、このあたりでフデリンドウが咲くのは、春と夏

の境目です。花の広がりはわずかに1.5センチ。その気で探さないと気づきません。

それでも、花の形はちゃんとリンドウになっています。


                           小説 縄文の残光 61

 

              風雲迫る(続き)

 

   しばらく考え込んでいたオハツペが、口を開いた。

    「アテルイ、お前は美しく話した。なぜ若者たちがお前の所に集まるか、納得で

きた。皆、どうだろう。ヤマトが攻め寄せたとき、アテルイに胆沢戦士の総指揮を

任せたいと思うのだが」

    「そんな!経験豊な長老の皆さんを差し置いて、わたしのような若輩者が。オ

ハツペ、それはあなたの役目だ」

    「戦いの中心になる若者たちが、一番信頼しているのはお前だ。さっきの言葉

に嘘がないのなら、お前は断ることができないはずだ。なあみんな、そう思わない

か」
   異論のある者はいなかった。アテルイが胆沢エミシの軍事指導者に決まった。

 
   東大寺建立に使われた木材は、およそ十万石(=杉や檜三万四千五百本)と推

定される。大仏鋳造に使われた銅、錫、金などの鋳造には、広葉樹二万石が伐採

され、炭に焼かれたようだ。七世紀から九世紀にかけて建造された大寺院は、法

隆寺・薬師寺興福寺など、五十に近い。八坂神社のような大神殿もある。そして、

宮殿や貴族の大邸宅。藤原豊成の邸宅建造だけで、二百本以上の杉が伐採さ

れた。

   地面に穴を掘って柱を建てる掘立柱建物は、木材の腐食のため、二十年ほど

で建て替えられる。かつて、温暖な気候に恵まれ、奈良盆地に鬱蒼と繁っていた

森林は、長岡遷都までにほとんど伐採され尽くしていた。当時は、果実用の樹木

は別として、建材用に植林されることはなかった。裸の山は、保水・水源涵養・土

砂流出防止機能を失う。

   東北エミシが、畿内の山野荒廃をどれだけ知っていたかは、定かではない。だ

が、城柵が築かれ、水田が拡張された地域で、豊な山水の恵みが失われ、動植

物が棲家を奪われる様を、目の当たりにしている。森の民としての本能が残って

いれば、心が傷付かないはずはない。

   アザマロは、自分も受け継いだ縄文人の心に、無自覚だった。だから、荒エミ

シの集合無意識をはみ出し、歴史の闇に消えることになった。アテルイはそれを

言葉にできた。

 
   数日後、再び族長たちが集まった。場所は前と同じ、堀立柱の集会所だった。

雨の日にみんなで集まって作業する、広い土間だけの建物である。予定されてい

る人々がほとんど揃った所へ、エアチウとヨシマロが入ってきた。入り口から射す

光を背に受ける、黒っぽい影。焚き火を囲む人々の輪に加わって、顔形が浮か

び上がった。栗原のヌプリの隣に座っていた壮年の男が、頭を上げ、何気なく二

人を見る。男の顔に、訝るような表情が浮かんだ。しばらくヨシマロを見詰めてか

ら、口を開いた。

    「お前、ヨシマロだよな」

   呼びかけられ、男を見返して叫んだ

    「トリ小父さんだ!どうしてここにいるんですか」

    「尻砂からここまで、お前たちも無事に来ていたんだな。トクシは?シマは元気

か。オマロやトクは?」

   ヌプリが二人を遮る。

    「どうやら下野で一緒だった仲間のようだな。積もる話もあるだろうが、族長方

をいつまでも待たせておくわけにはいかない。二人は外で話せ。少し落ち着いた

ら戻って来い。志波の人、それで構わぬかな」

    「ヨシマロ、そうさせてもらえ」と、エアチウ。  (この章続く)