白い山々


   デジモナさん、アジサイが咲いて梅雨入りですか。そんな季節なのですね。梅雨が

なく、8月にアジサイの花がある土地にいると、懐かしい季節感です。

イメージ 1

イメージ 2

イメージ 3

イメージ 4

イメージ 5

   連日30度を超える暑さ、応えますね。報道によると、関東・甲信地方では、35度

を超えたところもあるとか。どうぞ熱中症にご注意ください。美幌も今日は、最高が

4度という予報もあります。せめて目だけでも涼しくと思い、2週間前に撮った知床

山々をアップしました。


                               小説 縄文の残光 59

 

                    風雲迫る(続き)
 
   胆沢エミシのすべての集落が、ヤマトの侵攻に力で対決する構えになった。モレ

は族長間の話し合いで、たびたびアテルイの名を挙げる。胆沢地域南部で、大き

な稲作集落を率いる族長の発言である。軽んじられることはない。それに長老た

ちは、自分の集落でも若者たちから、「田茂山の知恵者」の名をさんざん聞かされ

ている。アテルイは、ヤマトとの戦が話題になる会合に、いつも呼ばれるようになっ

た。
 
   二度目の集まりで、族長の一人がアテルイに問いかけた。

    「坂東で、軍団兵とは別に兵の徴募が進められているそうだ。一、二年のうち

にヤマトの侵攻が始まるらしい。胆沢だけでは食い止めるのが難しい。他の地域

の様子は聞いているか」

   志波ではエアチウが奔走し、地域の部族が抗戦でほぼまとまった。伊冶城のあ

栗原郡や桃生城より北の海道一帯は、再び荒エミシに戻っている。このあたりと

は連携できる。閇伊も人を出してくれそうだ。そう説明した後で、アテルイは続け

た。

    「これらの地域から集められる戦士は、二千人を超えるでしょう。ヤマトは五万

からの軍を準備するようです。集団戦を訓練されたヤマト軍と、北上川西岸の平

地で戦えば、オレたちは圧倒的に不利です。何とか東岸の、川と山の狭間に誘

い込んで分断したい。

   今から、多賀城や玉造塞のあたりに人を送り込めないでしょうか。東岸に誘い

込むために、噂を流したり、敵の情報を集めたりする役目です」

    「うーん、ヤマト言葉が達者で、体つきもエミシらしくない者だな

    「近くの集落にシマという女がいます。十三年前に下野(しもつけ)から来ました。

兵や柵戸はたいてい坂東者だから、紛れやすいのですが。とはいえ、女を行かせ

るわけにはいきません。

   志波のナタミに、シマの息子が二人います。弟は最近オレの妹と所帯を持った

ばかりです。一本気で、それにまだ若い。血気に逸って何かしでかしそうで、危な

っかしい。間諜の仕事は無理です。細かな気配りが必要ですから。兄のほうは三

十に近いはずです。もう分別もついているでしょう。族長のエアチウに話してみま

しょうか」

    「噂をばらまくには一人ではどうにもならん。栗原には柵戸の郷がいくつかあっ

たはずだ。モレ、お前のところは栗原に近い。どんな様子か聞いていないか」

    「ヌプリとは行き来がある。アザマロがいなくなってから、あのあたりで一番力を

持っている族長だ。ヌプリの話だと、逃げ出した柵戸が多い。だが前から俘囚

しくていた者は今も残っていて、もう二度と賦や役はご免だって、言っているそうだ。

   ヌプリやエアチウにも参加してもらって、もう一度集まろうではないか。ヌプリには

オレが報せる。エアチウの所へは、アテルイ、おまえが行ってくれ」

    「よし、わかった。ついでにパイカラやオマロの顔も見てこよう。ところで、長老

のみなさん、まだ若造のオレだが、少し言わせてもらってもいいでしょうか」

    「構わんぞ。お前がどんなことを考えているのか、なぜ若い奴がお前のところに

集まるのか、オレも知りたい」  (この章続く)