海岸草原緑萌ゆ


    デジモナさん、セイヨウタンポポだけでなく、オオハンゴンソウルピナスなども、

こちらでは目立っています。きれいだけど、固有種の野草を脅かすと思えば、すな

おに愛でる気にもなれなくて。

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   日本一大きな海岸草原といわれるワッカ原生花園で、ようやく緑が萌えはじめて

います。藪の中では、センダイハギ・エゾキスゲゼンテイカの芽が、頭を持ち上

げていました。やがて草原を黄色に染める草花です。浅緑が目にやさしい、背の

低い木は、ハマナス(一・三枚目)。赤い花が咲くまで、あと一か月ほどでしょうか。

いま緑の中に散在する他の色は、タンポポ・ツルキジムシロの黄色と、ハマハタ

オの白(五・六枚目)です。


                                 小説 縄文の残光 56
 
                                                 オマロ(続き) 
 
   「エアチウ、ヤマトに侵攻を諦めさせる作戦を、オレ一人に考えさせるのはちょ

っとひどくないか。

   だけど、みんなが笑って生きるため、か。オレたちは腹の底から笑う。ヤマトで

は、競争に勝った者が高笑い。その後、自分の地位を守りたいという下心で、し

かつめらしい顔をして、もっともらしい言葉を並べて下の者に命令する。下の者は

出世したくて、勝者にへつらって笑う。そして陰では、競争相手を蹴落とそうと策略

をめぐらす。出世の望みのない下っ端役人は、貧しい民を嘲笑って憂さを晴らす。

そんな卑しい笑いは真っ平だ。自分が奴らの支配を受ける、そう思うと、反吐が出

そうだ。

   山と野と水の精霊が用意した物を、オレたちは自分の力で獲って、一族とも精

霊とも分け合う。それが楽しいから笑っていられる。これまでのエミシは、驕りや

嘲りの笑いなんか知らなかった。エアチウの言葉で、自分が何のために戦うのか、

すっきり納得できたよ。おい、モレ、お前も何とか言え」

    「オマロがエミシ将軍って言ったことが、正しかったような気がしてきたな。オレ

たちの領分をヤマトの勝手にさせなめには、部族が力を合わせなくては。「オレた

ち」がエミシで、エミシの戦人(いくさびと)をまとめるのが将軍か!どっちもヤマト言

葉だ。それを表す言葉がオレたちにはなかった。だから一つの戦では勝っても、

ヤマトを押し返すことができなかったのかなあー

   だけど、ヤマトに侵攻を諦めさせるのは、どえらい仕事だぞ。十年前、ウクハウ

が桃生城を襲った年だが、オレは朝貢に行く出羽の族長に頼んで、都へ連れて

行ってもらったことがある。都では、朝貢の前に王臣家や富者の家人、商人が集

まってきて、ずいぶん有利な取引ができる。この後、エミシの入朝が停止になった

のだがな。とにかく、人がうじゃうじゃいて、どでかい役所や寺があった。オレは思

ったよ、奴らの力は底が知れないって。

   アテルイ、やっぱりお前が知恵を絞れ。底知れない力を持つヤマトに、オレたち

の大地から手を引かせるには、どんな戦(いくさ)をすればいいのか」

    「都へ攻め上って天皇や貴族を一掃すれば、北の地は安泰になる。だがその

ためには、エミシの国を建て、強大な軍を作らねばならん。軍を支える税も取り立

てることになる。それでは、ヤマトがもう一つできるだけだ。みんなで笑ってくらせな

くなる。そんなの、オレはいやだ。

   モレは奴らの力は底知れぬと言ったな。だけど、深くても底はある。際限なく兵

や税を取り立てれば、民が死ぬ。いや、その前にヤマトに内乱が起きる。結局、

奴らができるかぎりの兵力と兵糧を集め、攻めかかるのをじっと待って、一気に

叩き潰すしかない。もう一度力を蓄えるには、五十年も百年もかかるほどに、だ。

それしかない。そういう戦ができるように、オレたちは準備するんだ」

   三人の話を聞いていたオマロは、感極まって叫んだ。

    「アテルイ、オレはその戦で先頭を切る。あんたは弓の名人だ。オレを戦人(

くさびと)に鍛えてくれ。志波の戦で、エアチウは見事な作戦を立てた。オレにも戦

い方を教えてくれ」

    「だめだ、オマロ。エミシには、他人から食わせてもらい、戦うだけの戦人はい

ない。誰もが自分で狩りをし、土を耕す。戦があってもなくても、それがエミシだ。

お前は大人の仲間入りをしたばかりだ。まず、狩りの腕を磨け。トクシのような、

稲作りの技を身につけろ。女を抱いて愛(いつく)しめ。子を作れ。いつかお前にも、

戦ってもらわなければならないかもしれない。それまでは、笑いながら狩りをし、

土を耕せ。そういうくらしを、子らに伝えろ」

   アテルイがそう言い終わると、三人は立ち上がり、日溜りから去って行った。

                                                                                (この章続く)