桜とレンギョウ


イメージ 1

イメージ 5

イメージ 2

イメージ 3

イメージ 4

   このところ曇天が続き、明るい色彩が恋しくなりました。それで3週間前に撮ったフ

ラワーパラダイスの写真を。逆光に透かした桜と鮮やかな黄色のレンギョウです。

だアップしていませんでした。

   もちろん街ではもう桜は咲いていません。レンギョウいま散り際。ご近所の三軒

に一軒は植ています。民家の庭では、こんなに背を高くなるまで放置はしませ

ん。フラパラでは、モクレンと競うほど伸びて、派手に色彩をばらまいていました。


                              小説 縄文の残光 53
 
                                             オマロ(続き) 
 
   草原の鷲と狼が餌を奪い合うように、森の木々は光を奪い合う。ゆっくり乾燥し

ていく湿地や、落雷・火山噴火による火事の焼け跡で、幼木が大きくなると、光の

奪い合いが始まる。数十年後には、敗者は枯れ、勝者は巨木になっている。広が

る枝が葉を繁らせる。古い森には、若木や潅木は少ない。雪が融けて間もない春

先は、裸木の枝から漏れる光を受け、背の低い草、それにコブシや山桜が、すば

やく花を咲かせ、葉を芽吹かせる。

   春の華やぎの季節は短い。広葉樹の古い森は、夏から秋まで薄暗い。そんな

森の一画に、明るい林床がぽっかり開けることがある。長い歳月を生きて老いた

巨木が、強風に耐えかねて倒れると、その周囲に暖かな日溜りができるのであ

る。

   円形の小さな広場の中心に、一本の山毛欅(ブナ)が倒れている。幹の太いとこ

ろは三尺(90センチ)を超える。深さ一尺半(45センチ)ほどの穴の縁で、広がった

根が幹の端を高く持ち上げている。日溜りは巨木に囲まれている。上空から俯瞰

する鳥には、鬱蒼たる森に穿たれた、明るく穴のように見えるだろうか。

   十六歳になったオマロが、少し低くなった幹の中ほどによじ登り、手を差し伸べ

て少女を引き上げる。十五歳の少女の名はパイカラ、アテルイの妹である。オマ

ロは前年、ナタミ集落で、成人儀礼を済ませた。女たちは、若者が儀礼を終わる

といつもそうするように、我こそはその男の最初の女になろうと、色目を使う。オマ

ロは別なことに夢中で、女たちの挙動を無視している。アザマロの叛乱から三年、

ヤマトの圧力が後退し、エミシは意気が高い。大人の仲間入りを許され、少年は

戦いの予感に血を滾(たぎ)らせている。

   自分の出番がいつになるのか知ろうと、前にも増して頻繁にアテルイを訪ねる

ようになった。だが最近は留守が多い。そんな日は、晴れていれば、パイカラを誘

って森に入る。

   ようやく涼しい秋風が渡るようになったが、まだ緑に勢いが残っている。もうしば

らくすれば、パイカラも部族の女たちと一緒に森へ入る。忙しい季節は近いが、今

はまだゆとりがある。収穫期を迎えた穀物は、アテルイを慕って訪れ、会えなかっ

た男たちが、女たちを手伝って取り入れた。たいして広くもない田畑である。大勢

なので、一日で作業が終わった。

   暖かな日射しを浴びて、少年と少女は倒木の幹に腰掛け、脚をぶらぶらさせて

いる。顔を見合わせるわけでも、おしゃべりするわけでもない。ただ寄り添って並

んでいるだけだ。

   やがてオマロが懐から口琴を取り出し、奏ではじめる。音の高低が乏しいので、

メロディーは単調だ。それでも豊かな響きが、振動する小さな弦から広がり、冷涼

な木陰に吸い込まれる。緩急のリズムに身を任せれば、哀しみと華やぎが入り混

じるうねりが、心の奥から誘い出される。パイカルは我知らず、前夜見た夢を語っ

ていた。オマロは話の筋を追わない。ただ少女の声だけを聴いている。弦の響きと

声がもつれ合い、混じりあって森の奥に消えていく。 (この章続く)