林床に咲く黄花


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   林の木々に葉が繁り、明るい陽光が届かなくなる前の林床に咲く黄花を二種。前

は、ナツボウズの異名があるナニワズです。れっきとした樹木ですが、直立しても50

センチほど、多くは雪の重みでもっと地面近くに身を伏せています。白が入った黄色

の小さい花はつつましく、可憐に感じられます。

   後半はエゾキケマン。草本で、エゾエンゴサクの仲間です。色はナニワズより強い

けれど、やはり白い粉がすこし混じる感じです。背丈は40センチほど。華鬘(ケマン)

は仏殿の装飾物の一つだとか。もともとは花輪で、金属や木で作られるようになって

変化したようです。


                             小説 縄文の残光 47

     

               アザマロ(続き)

 

   かつて栗原に郡ができたとき、主な族長は郡司になり、禄を支給された。田が

広げられ、エミシにも分けられたが、地位・功績や家ごとの人数で差がある。田

が広い家では、男が稲作りの先頭に立った。ヤマトからもたらされる知識や技術

もあり、収穫が増える。禄を受けたり、田が広かったりした家では、不作でなけれ

ば、米は余る。人数の多い家は、男は狩りに行く余裕がある。肉を分ける習慣は

続いても、熊の胆や獣皮は仕留めた者が交換に使う。

   近くにできた柵戸の郷をまね、余った米を不足する家に分けず、須恵器や絹、

あるいは玉などと交換する者も現れた。財を蓄える富戸と食う物にも窮する貧戸

の別ができ、誇ったり羨んだり疑ったりして、人々の気持ちがまとまらない。だか

、郡大領の自分が専決する場面が多くなった。背後にヤマトがいるから、労役

や軍役の割り振りなどに不満がある者も、ほとんど逆らわなかった。

   部族や人によって、ヤマトに対する憎しみにも濃淡がある。その支配を喜ぶ者

もいる。だから叛乱の機運を盛り上げるために、略奪で誘った。

   だが叛乱の後、加担した俘囚は、欲しかった物を手に入れ、村に戻った。今や

アザマロは、それまで後ろ盾だった政府の、憎しみの的である。後難を恐れる者

には、近づくのが危険な存在になった。抗戦派の中心である胆沢と志波には、自

分は裏切り者である。かつて指揮下にあった夷俘軍は、政府の給養がなくなり、

四散した。今やアザマロの孤立は、深まるばかり。皮肉なことに、自分が始めた

叛乱の結果、身の置き所がなくなってしまった。

   叛乱から二か月後のことだった。和賀から妻の兄が、在所の家にアザマロを

訪れた。ヤマトが広純の後任を定め、その軍が多賀城の南に駐屯している。噂

だが、アザマロの首をそこに届ければ、恩賞が間違いないと言っている者がいる、

と話した。そして、アザマロが身を隠すつもりなら、妹と子は自分が連れ帰り、密

かに面倒を見ると、申し出た。

 
   あるとき巫女パセノミの耳に、一つの風聞が届いた。アザマロが北へ奔る途中、

志波のエミシに討たれたという。巫女は、以前アザマロの去り際に、脳裏に浮かん

だ黒い影をまざまざと思い出した。三年前にアザマロの俘軍に村人を殺された部

族が、復讐したのだと思った。 (この章続く)