雲映す山の湖


   そらさん、そうです。湖面に摩周岳と空が映っています。中島(カムイシュ島)が黒

く見えています。今日は、湖面に映る雲を主役にした写真を。

イメージ 1

イメージ 2

イメージ 3

イメージ 4

   摩周湖を覗き込んだとたん、湖面に映る白い雲が目に飛び込んできました。夢中

で何枚か撮り、後で空を見上げると、雲自体がうろこ状で面白く、また何枚か。こち

らもそのうちにアップします。


                               小説 縄文の残光 44

     

                   アザマロ(続き)

 

   栗原郡家は伊冶城の南約一里(4キロ)。城に近いので、鎮兵も軍団兵も駐屯し

ていない。アザマロは郡家の主(ぬし)である。柵戸(ヤマト地域からの移住者)

役人に、国府の一行を迎える宴の準備を委ね、伊冶城に向かわせた。これで、

広純に注進する者はいなくなった。

   二百の馬と五百ほどの俘囚の若者を、近隣のエミシ集落に分散して潜ませて

いた。「日没までに全員を郡家に集めるのだ。細かな指示はオレが戻って出す」、

そう言い残して城に行き、到着した一行を何食わぬ顔で出迎えた。

   城には国府役人の一人が城司として詰めており、普通なら鎮兵や軍団兵が常

駐している。だが広純はアザマロを完全に手なづけたと思っていた。城に残って

いるのは鎮兵が百、アザマロ指揮下の俘軍が五百である。俘軍には既に、伊冶

城略奪の許可と引き換えに、叛乱の同意を取り付けていた。広純の護衛兵が百

と知ったとき、アザマロの耳に再び、予言を伝える巫女パセノミの声が甦った。

日没前、アザマロは宴の準備で慌しい城を抜け出し、郡家に集結した俘囚の若

者に指示した。

    「宴が終わりに近づいたころ、伊冶城南門近くの木立で狼煙をあげる。それを

見たら直ちに城へ走れ。騎馬なら半刻(15分)はかからん。徒歩でも急げば一刻

で到着できる。二手に分かれ、正門と裏門につながる大溝の橋詰めに潜め。広

純の首を挙げる前に、覚?城の兵に知られてはならん。報せに走る者がいれば

殺せ。空に昇る火矢を合図に、松明を掲げ、鬨(とき)の声を上げろ。外郭を警備

する鎮兵を引きつけるのだ。その間に正殿に火を掛け、内から門を開かせる。

城内の俘軍に合流し、鎮兵と護衛兵を制圧しろ。その後は、好きなように城内の

物を奪えばいい」

   戻ったアザマロは、城内の警備には鎮兵と俘軍が当たるので、護衛隊は宿舎

で休ませるようにと進言した。進言は容れられた。宴が始まってから、隊長の大

楯からと偽り、宿舎に酒食を運び込ませた。その周りを密かに二百の俘兵に包

させる。櫓や外郭の土塁で警戒に当たるのは、鎮兵と百の俘兵。残りの俘兵

が正殿の警備と、国府一行の接待である。宴は正殿の奥の間で営まれる。

   兵の配置を終えると、アザマロは宴席に侍(はべ)る俘囚の妻に、そっと耳打ち

した。

   「大楯にどんどん酒を奨め、したたかに酔わせろ。いい具合に酔ったら、伽をす

るふりをして、寝所に案内するのだ」

   酔った大楯は、早々に宴席を退いた。寝所には力の強い俘兵三人が潜んでい

る。案内してきた女が、しなだれかかるふりをして、大楯を突き放す。よろめく大

楯の胸を、物陰から飛び出した俘兵の剣が貫いた。直ちに首が刎ねられる。ア

ザマロは接待役の俘兵の小さな合図を見て、厠へ、とつぶやいて、席を立った。

   (この章続く)