摩周湖の雪わずか
今月12日の摩周湖は、崖襞にわずかに雪が残っているだけでした。今日はたぶ
ん、雪化粧が新しくなっていると思います。昨日未明から、美幌峠などあちこちの道
路が、雪で通行止めになりました。家でも寒く、終日ストーブを。この辺りでは、五月
の雪はたいして珍しくもないようです。近年では5月29日という記録もあるとか。
小説 縄文の残光 43
アザマロ(続き)
正気に戻ったパセノミの言葉が続く。
「俘囚もお前と同じように、ヤマト人に恨みをもっている。お前がやると言えば
付いて来る。二人の周りに軍団兵や鎮守兵が少なくなる折があれば、事は成る」
巫女の言葉で、アザマロは数日前届いた通告を思い出した。長岡で起きたエミシ
べつ)城註建設を開始している。通告は、築城の進捗状態を視察し、長岡を襲った
エミシを討つため、来月には広純が軍を率いて来る、というものだった。
註 覚?城の位置については、伊冶城と胆沢の間だとする推定が多い。だが歴史家の工藤雅樹
は、北西の栗駒山麓方向から長岡が襲われることへの対応だから、長岡の宮沢遺跡が覚?城跡だ
の上部の下に魚へん。
大楯も一緒だろう。造作が始まったばかりの覚?城は、まだ貴人の宿泊には
の俘囚村からも男を集められる。ヤマト兵の多くは築城現場の警備に配されるか
ら、広純の身辺が手薄になるにちがいない。
「おはば、感謝するぞ。俺の心は決まった」
パセノミの耳にアザマロの言葉は届いていない。そのとき、脳裏に広がる黒い
影に、巫女は心を奪われていた。巫女は、目の前にいる相手の感情に直接共感
するだけでなく、部族の人々が無意識に共有する感情に、自分の心を同致させ
る能力がある。黒い影は荒エミシの共同無意識だった。アザマロは謀反には成
功する。だがその後、この黒い影に呑み込まれる。アザマロは、パセノミの脳裏
に浮かんだ黒い影のことを知らない。
三月半ば、アザマロに次々報せが届いた。広純は予定通り多賀城を出発した。
一行には按察使の広純の他、真綱など陸奥国上級役人のほとんどが加わってい
る。進発時の軍は二千。道嶋大楯は広純を護衛する部隊の指揮官として、多賀
城から随行している。五里(20キロ)ほど進んで黒川駅に一泊、翌日は五里半を
北上し、夕刻に玉造柵に到着した。ここで玉造軍団兵の半分、千人を併せ、一里
半ほど北の覚?城周辺でエミシ村を捜索し、正月の長岡襲撃に加わった賊を何
人か捕らえた。
覚?城は柵、土塁、大溝、櫓などが完成しておらず、長岡を襲撃した荒エミシ
の大半は、掃討されていない。広純は幕舎を設営させ、率いてきた兵のほとんど
を、防備のためこの地に留めた。自身は二十二日に、百騎の兵に護られ、五里
先の伊冶城へ向かうという。 (この章続く)