花の山


   デジモナさん、長いお泊りになりましたね。たいへんだったでしょう。でもとにかくお

帰りになって、わたしは嬉しいです。

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     先週の北見フラワーパラダイスです。桜はピンクや白、モクレンは紫と白、レンギ

ョウは黄色、それにエゾムラサキツツジと黄色いスイセン。松や笹などの緑も加わっ

て、華やぎに満ちています。大連休が終わって平日でしたが、けっこう多くの人が、

車や徒歩で登っていました。花だらけの一山に無料で 入れるのは、ありがたいこと

です。  この日もあちこちに手入れをする人がいました。

                                小説 縄文の残光 40

     

                  アザマロ(続き)

 

   アザマロを引き立てたのは、按察使(あぜち)の紀広純。当時の出羽・陸奥両国

で、最高位の官人である。アザマロは、広純が自分に好意を持ってはいないと、

気づいていた。それでも、先の志波・胆沢戦で、戦功と呼べる結果を出したのは、

自分が率いた栗原俘軍だけ。一を以って百に当たると言われた、エミシの戦闘力

を見せつけることになった。

   アザマロは広純が、「夷を以って夷を制することこそ上策」と口にするのを、漏

れ聞いている。広純の考えは推測できる。アザマロの帰順に疑いを残していたが、

志波村を焼きエミシを殺した。胆沢も攻めた。もう荒エミシ(恭順していないエミシ)

と手を結ぶことはできない。さらにヤマトへの忠誠を固めさせようと、アザマロの

叙勲を申請し、都へも上らせ、朝廷の威容を見せつけた。これで裏切ることはな

いと確信し、俘軍を委ねた。征夷の先頭に立たせ、その功で広純自身が出世し

たいのだ。

   アザマロの武力は重用(ちょうよう)するが、それは鋭利な剣と同じように、役に

立つ道具として。内心では、やはり自分をエミシと蔑んでいる。地位を与えておけ

ば、尻尾を振って付いて来ると、軽んじている。もともと、エミシなど人の形をした

獣、くらいにしか思っていない。


   宝亀十一年(780年)正月、新年を祝う宴の場。牡鹿郡大領の道嶋大楯が、紀

広純に近い上席に座を占めている。大楯の他にも、位はアザマロより下の役人

が、あたり前のような顔で上席に座っていた。エミシが加わる饗応では、獣肉が供

される慣わしだったが、都の風習に染まった列席者は手を付けない。

    「アザマロは獣肉を好むか。外従五位下の位は授かっても、エミシはやはりエ

ミシよの

   大楯のこの嘲りは、まっすぐにアザマロの心を刺した。思わず傍らの蕨手刀に

かかる手を、するすると近づいた大伴真綱が、後ろからそっと抑えた。真綱は陸

奥介(国司次席)で、鎮守副将軍である。その地位は、按察使と鎮守将軍を兼ね

陸奥(国司筆頭)の広純に次ぐ。気の弱いところがあり、武功を挙げて出世し

ようとはせず、早く都へ帰りたいと願っている。何かと嫌がらせをされるアザマロ

に同情的で、人のいないところでそっと慰めたりもしている。二人をじろりと一瞥し

た紀広純は、何も見なかったような顔で、手にした盃を傾けていた。

   道嶋一族の出世話は、ことあるごとに大楯が言いふらし、アザマロも飽きるほ

ど聞かされている。一族は牡鹿一帯の大豪族である。何代か前に坂東から移り

住んで、この地に勢力を培った。もともとは丸子姓。一族繁栄の基盤を築いたの

は、丸子嶋足(しまたり)、後の道嶋宿禰(みちしまのすくね)である。嶋足は舎人(

ねり)として都に出て、優れた武勇で着々と地歩を築いた。 (この章続く)