湖畔の森に咲くコブシ


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  五月になって、あちこち森を歩きました。葉が芽吹く前の落葉樹の森は、林床にさ

まざまな草花が咲いています。針葉樹が多い森では、草花は見ませんでした。その

どちらでも、目を上げた時の楽しみは、時々現れる白いコブシの花です。

 今年は例年より花に勢いがあるような。美幌の町や北見のフラワーパラダイスで

も、よく目立っています。でも、森の奥で裸の枝越しに目に入る、孤立した白い輝き

の方が、趣が深い気がします。

   今日の写真は、網走湖畔、呼人探鳥遊歩道の森で。


                            小説 縄文の残光 39

    

                                        それぞれの路(続き)

 

   シマはオマロに、自分と胆沢へ行くか、父親と津軽へ行くか尋ねた。返ってきた

返事は、
   
    「どっちにも行かない。この家に残る。もう小さい子じゃないからだいじょうぶ。

ヨシマロもいるし、困ったことがあればセコナだってフレトイだって、援けてくれる

よ。ここでは親のいない子でも、みんなが可愛がってくれる。それはお母だって知

ってるよね」
 
   たしかに知っていた。その点ではシマに心配はない。オマロは十一歳。すぐ大

人という歳だ。

    「それに、お父とはもう会えないかもしれないけど、お母にはしょっちゅう会える

よ。アテルイが家に来ていいって言ってるんだ。シスカイレと集落はちがうけど、こ

こよりはずっと近い。行くたびに顔を出すから」

 
   二日前に、トクシがエアチウと話したのは、人のいない森の中だった。

    「他の者には知られたくないが、族長のあんたには話そうと思う。一昨年の五

月の戦いで、遠くに、砂尻の昔馴染みの姿を見たような気がした。小さいころ

ら一緒に遊んで、一緒に大人になった仲間だ。あの体つきは覚えがある。これか

らヤマトとの戦が激しくなるって、ヨシマロが言っている。戦場(いくさば)で昔の仲

間と向き合って殺しあうのかと思うと、脚が竦むような気がする。

   それにあのときオレは、川にたどり着く前に兵に追いつかれ、斬られそうになっ

た。それをエアチウ、アンタが間に入り、馬に引き上げてくれたので、死なずにす

んだ。俺はみんなみたいに速く走れない。これからも足手まといになって、仲間の

誰かを死なせてしまうのではないかと思うと、・・・・」

    「そうか、そんなことを考えていたのか。だからずっと、塞ぎこんでいたんだな。

オレたちはヤマトみたいに、隊列を揃え、鼓と鉦で一斉に進退するような戦い方

はしない。足が遅くても、弓がうまくなくても、できることはある。オレたちはお前を

足手まといとは思わない。だが、お前は徴発された軍団兵じゃない。戦いたくなけ

れば戦わなくてもいいんだ。それで、どうしたいんだ」

    「シマはシスカイレに気があるようだ。子どもたちはそれぞれ大きくなって、もう

オレを必要としていない。オレ一人のことなら、どこか戦のないところで、静にくら

せたらいいかな、と」

    「で、どこか行く当てはあるのか」

    「下野には戻れないし、どこへ行けばいいのだろう」

    「津軽はどうだ。ヤマトがあそこまで攻め上ることはないだろう。田を広げる仕

事なら、お前は知恵や技術がある。その気なら、印にこの刀子を渡すから、オレ

の知り人を訪ねるといい。オレの名を言えば、きっと受け容れてくれる」

それで気持ちが決まった。 (この章続く)