コガラちょこまか


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   春の木の葉が茂る前は小鳥の季節。裸の枝は姿を隠さないので、遠くからでも

カメラに捉えられます。黒いベレー帽の小さな鳥は、その名も小さいガラ、コガラの

ようです。ちょこまか動き回り、落ち着きのない鳥です。



                           小説 縄文の残光 34
 
                 志波侵攻(続き)
 
   追っているときは、見え隠れする背が道標(みちしるべ)だった。帰路は分岐点

ごとに、右か左か決めなくてはならない。森の出口に通じているのはどちらか、皆

目わからない。山奥に迷い込む者。獣道に踏み込んで道が消え、途方にくれる

者。踏み惑う兵たちをエミシは襲おうとはしなかった。それでも、日暮れ前に露営

地に戻ったのは、半数に満たない。アザマロと話した兵は、奥に迷い込まず抜け

られ、幸運だったのだ。

   アザマロが南の集落から露営地に戻ったのは、夕刻である。先に帰ったヤマト

将兵が、慌ただしく動き回っていた。物見台も天幕も焼かれている。守備兵は

ほとんどが死傷し、糧食はすべて持ち去られたという。志波エミシに襲撃された

のだった。アザマロ隊が略奪した米や粟を、戻っていた全員に分け、星空の下で

野営することになった。

   ヤマトの将にもようやくわかった。志波の賊は最初から露営地を狙っていたの

だ。中心集落に集まっていた五百人は囮で、山に軍を誘い込んで迷わせるのが

役割。相当な人数が陣を襲ったにちがいない。もっと多くの守備兵を残すべきだ

った。油断だ。中心集落に五百人、川から三百人。その他に露営地を襲う人数

がいたとは!胆沢が人を出したのではないかと、疑念を抱く将もいた。翌日一日

待ち、ようやく山を抜けてたどり着いた兵を収容し、軍は撤収した。

   十一月、アザマロは栗原の俘囚とともに、胆沢を攻めた。志波への加担を疑っ

ての、報復である。陸奥国のヤマト兵も加わり、総勢三千。大集落は避け、二つ

の小集落を襲った。それぞれ家数三十そこそこの部族である。三千もの、予期し

ない敵襲に、抵抗できるはずがない。あっけなく降伏したが、何軒か小屋を焼き、

二十数人の男を捕えた。アザマロには、五月の敗戦を取り繕い、報復心を満足

させるためだと、わかっていた。志波や胆沢の戦力を削ぐ、という点ではほとんど

意味はない。それでも、襲撃の主力を率いたアザマロは、陸奥国政府内で、高く

評価されるようになった。

    翌年十一月に、出羽の軍が再び志波を襲う。このときも朝廷へ、勝利の報告

は届かなかったという。(この章終わり)