桜ほころぶ


イメージ 1

イメージ 2

イメージ 3

イメージ 4

イメージ 5

   日曜日のせせらぎ公園で、一輪、二輪ほころぶ桜花を見つけました。月曜と火

、あちこちの庭、公園、路傍で、木々がはなやかな薄紅色に包まれていました。

エゾムラサキツツジレンギョウ、コブシも色彩を競っています。庭のビオラは、いつ

もならとうに盛りのはずなのに、いまやっといくつか花が。ニリンソウエンレイソウ

もまだです。草花が遅れ、木の花が追いついてしまいました。

 

 

                               小説 縄文の残光 32

 

                 志波侵攻(続き)


   斥侯が退出した後、指揮官が将校たちに訓示した。

    「賊は他の集落を捨て、戦える男は、全員が中心集落に集まっているようだ。

兵を分散せずに済む。我らには好都合だ。高台の端から雫石川の南を眺めると、

あのあたりはほぼ平坦で、田畑が広がっている。歩兵の出処進退が自由にでき

る。幾筋も広い道が通っていて、騎馬も疾駆できる。こちらの兵数は三十倍を超

える。我らの勝利はまちがいない。

   携行する兵糧は一日分。他は陣に残して行く。明日には戻り、勝利を祝えるは

ずだ。お前たち将校は、戦の目的を忘れてはならん。朝廷は志波エミシを帰順さ

せ、ここに城柵を築くことを望んでいる。築城にはエミシの力役も必要だ。勝利は

明らかなのだから、無用な殺戮はするな。集落を包囲し、賊を降伏させるのだ。

その後で、ゆっくり女や子どもを狩り出す」

   出羽の将校から声が上がった。

    「我らは四月に仲間を殺されています。その報復は許されないのですか」

    「お前たちの気持ちはわかっている。何人かは賊の首を刎ねてよい。逆らえば

どうなるか、思い知らせねばならんからな。小屋を一つ二つ焼くことも許す。見せ

しめだ。だが朝廷は、捕らえたり帰順させたりしたエミシの数で、我らの戦功を賞

する。それを忘れるな。さあ、隊列を整え、速やかに発進せよ」

   真っ先に雫石川を渡った出羽の部隊が、集落の南を塞いだ。次に、陸奥兵の

うち五千が、北から回り込み、集落と北上川の間に隊列を敷いた。敵を東岸の森

に逃げ込ませないためだった。陸奥軍の本隊が、最後に雫石川を渡り、展開しな

がら東進し、集落の西と北を封鎖した。

   本隊は横二百人の列を五十段に重ね、打ち鳴らされる鼓に合わせ、包囲を狭

める。近づく鼓の音に応えるように、小屋の陰から男たちが姿を現し、集落の前

に集まった。数十の騎馬。鞍を置いた者も裸馬に跨る者もいる。残りの数百は徒

歩で、猪鹿弓を携えている。甲冑を着けているのは数人だけ。他は、毛皮の衣に

兜、革甲、綿墺(布製の冑)、山装束と、身なりはバラバラだった。隊列もない。不

規則な集団である。てんでに弓を引くが、矢は、ヤマト兵が頭上と前面に並べた

楯を破れない。兵の前進は止まらず、エミシはじりじり後退する。騎射しながら数

騎が飛び出す。だが、甲冑に身を固めたヤマトの騎馬隊に追い回され、すぐに逃

げ返る。

   エミシが集落の中まで後退したときだ。集落の東側を固めていた隊に動揺が走

った。背後の川岸から、突如姿を現した数百のエミシが、襲いかかったのだった。

雫石川と合流する前に、北上川が大きく蛇行する。浅瀬の蘆の茂みに、夜の闇に

まぎれ、小船が数十艘隠されていたようだ。包囲開始のころ南下を始め、集落近

くの河原で敵兵を上陸させたのだろう。斥候は川を渡らず、船に気付かなかった。

    (この章続く)