残氷光る屈斜路湖


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   屈斜路湖和琴半島の残氷が、早朝の低い陽の光で銀色に輝いています。この写

真を撮ってから二週間、温水が湧いて融けはじめるのが早い和琴半島だけでなく、

湖全体に水面が広がっているでしょう。年によっては、湖岸近くに打ち寄せられた氷

塊が、小さい氷山のように積み上がることがあります。連休の終わるころ、天気が

安定したら、行ってみるつもりです。


                           小説 縄文の残光 28


               志波侵攻(続き)

 

   広場の中央に男たち。女と子どもがその周りに座り込んで、話し合いが続いて

いる。エアチウの提案で、ヨシマロもペトクスに行くことになった。巧みに馬を乗り

こなすので、ナタミとのつなぎができる。

   若者たちが散った。志波一帯の集落に事態を報せ、族長たちにペトクスへ来て

もらうためである。残った者たちで、避難場所の話し合いになった。米・粟や乾魚・

乾肉など、腐らない食物を運んでおく。戦いが始まったら、女・子ども・年寄りはそ

こに隠れる。早池峰北側の谷筋にある、三つの洞窟に決まった。閇伊の南であ

る。敵は西の山を越えて来る。北上川の東に広がる深い山地なら、地理に疎い

ヤマトの兵には探せないだろう。

   集会の後、エアチウはフレトイの小屋に行き、シスカイレに問いかけた。

   「胆沢の衆はどうなんだ。ヤマトに付くのか」

   「胆沢川沿いの大きい集落の族長たちは、自分たちが攻められなければ、ヤマ

トと戦うつもりはない。ヤマトもそれを知っているから、胆沢を刺激して敵に回さな

いように、わざわざ雄勝側から攻めようとしているんだと思うよ。だけど胆沢でも、

ここみたいな山の衆はちがうんだ。特に若い者たちは、志波と示し合わせて、ヤマ

トを押し戻せって言う奴も多い。でもな、大きい部族が動かないと」

   「そうか、胆沢の援けは当てにできそうもないな。敵にだけは回って欲しくないも

のだ。このあたりの山を知ってる奴もいるし」

   「それならオレが案内するから、アテルイって奴に使いを出すといい。まだ二十

歳そこそこの若造だけど、元気のいい若い衆には人気がある。頭も切れる。奴な

ら若者に知恵を授けられる。それぞれが、集落の族長をうまくつついて、俘軍に人

を出すのを止めさせられるよ」

   「よし、ノチウを行かせよう。シスカイレ、ノチウをアテルイに会わせてくれ」

 
   ナタミの三人がペトクスへ下りて四日目、集まった族長たちの前に一人の男が

案内されて来た。

   「オレは族長に命じられ、雄勝から密かに山を越えて来た。ヤマトの軍が志波を

襲うのは、もう知っているな。オレたちもしかたなく俘軍に加わるが、本心は志波の

衆の味方だ。それで、出羽軍が侵攻する道順を知らせに来た」

   「そうか!それはありがたい。で、軍勢はどのくらいだ」

   「出羽からは軍団兵と雄勝の俘兵を併せて四千。これは四月中に来る。陸奥

は、軍団兵、鎮兵、栗原の俘軍で、全部で二万ほど。輜重部隊を除く戦闘員は一

万二千人ほどかな。そのうち、下野・下総からの騎馬兵が三百騎くらい。出羽軍

に合流するのは五月だろう」

   「それはまた、すごい数だな。志波一帯の集落から精いっぱい男を集めても、

千を超すかどうかだぞ」

   「だが、手をこまねいているわけにはいかない。このあたりの山はオレたちの庭

みたいなものだ。侵攻の道がわかれば戦いようはある。先に来る出羽軍の道順を

教えてくれ」  (この章続く)