ミヤマカケス
道内にいるのは、本州にいるカケスの亜種で、ミヤマカケス。カケスとは頭の色が
違うようです。4月の雪解けのころ、林間の道を走っていると、たびたび車の前を横
切ります。30センチほどの、鳩くらいの大きさで、よく目立つ色です。会うことが多い
鳥なのに、今年はまだ、近くからは撮れていません。
小説 縄文の残光 27
志波侵攻
宝亀7年(776年)春四月、木々の赤味を帯びた新芽や黄緑色の若葉に、人
々の気持が伸びやかになる季節だった。ある朝早く、亡きノッキリの家族がくらす
小屋に、一人の若者が息せき切って駆け込んできた。フレトイが朝餉の支度をし
ようと、囲炉裏の火を竈(かまど)に移したところだった。
「ああびっくりした。あんたもしかして、シスカイレじゃないかい」
「そうだよ、シスカイレだよ」
「わたしが胆沢でノッキリと所帯を持ってたころ、かわいい坊やだったけど。立
派な男になって。すぐにはわからなかったよ」
「今は昔の話をしているときじゃない。ヤマトが志波に攻めてくるんだ」
「なんだって!ヤマトが攻めて来るって!詳しく話しておくれ」
「母ちゃんが狭布(さばぬの=エミシへの饗給・交易に使われる幅の狭い布)を
欲しがっていたんで、熊の毛皮と交換で手に入れようと、伊冶の柵へ行ったんだ。
そしたら大勢の兵が柵の門を出入りしていた。それで、俘軍にいる知り人を呼び
出し、聞いてみた。奴が言うには、志波攻めの準備をしているところだ、って。
志波に入るようだ。坂東や海道から糧食を運び込んだり、俘囚村から男を集めた
りしているので、城が慌ただしいのだと、話してくれた。
オレは世話になった小母さん一家のことを思い出し、すぐに知らせようと、駆け
つけて来たんだよ」
「そうかい、今日のことじゃないんだね。だけど軍を集めているんなら急がなくて
は。イズナ、すぐエアチウのところへ行くんだ。いっしょに族長に報せ、男たちを広
場に集めな。
シスカイレ、みんなの前でもう一度話をしておくれ。だけどあんた、ずいぶん疲
れた顔をしているよ、夜通し駆けて来たんだね。お腹もすいているだろう。囲炉裏
で乾し肉を炙るからお食べ。みんなが集まったら呼びに来るよ」
胆沢は、沢冶城から、十一里(44キロ)ほど北上した北上中流の盆地。さらに
十五里(60キロ)ほど北が、志波村である。この時期はまだ、伊冶城より北の官
道は整備されていない。シスカイレはほとんど不眠不休で、山道(やまみち)を駆
け続けたにちがいない。
間もなく広場に男たちが集まった。シスカイレの説明を聞いて、族長が言った。
「まだ糧食の運び込みが続いているのなら、陸奥の軍が発進するまで、半月は
かかるな。一度山を越え、出羽側から来るとすれば、奴らが姿を現すのはその
二、三日後だ。出羽軍の方が早いかもしれない。それでも、他の集落と連絡をと
る時間はあるだろう。
オレは山を下りて川向こうのペトクス集落へ行く。何といっても、志波の中心部
族だからな。戦士が二百人はいる。エアチウ、いっしょに来てくれ。オレは歳だ。
ナタミ一族の戦士を束ねるのはお前だ」
このときからエアチウは、ナタミの男たちを率い、生涯ヤマトと戦い続けること
になる。志波戦の間は、ペトクスの族長の傍らにあって、抗戦の戦術を練った。
(この章続く)