岬のエゾエンゴサク


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   町では、せせらぎ公園でも美富自然公園でも、まだエゾエンゴサクの花が咲いて

いません。例年ならとっくにと思うと、じれったいような気がして、昨日、雪解けの早

い能岬に行って撮ってきました。

  予想通り咲いていましたが、ここのエゾエンゴサクの花は小さくて。フキノトウと比

べると、それがよくわかります。海に突き出した、吹き曝しの厳しい環境だから。雪

解けも開花も遅い森の奥では、10センチほどにも伸び、花房も大きくなります。

                        小説 縄文の残光 20

 

                  シ マ(続き)

 
   シマは知らないことだが、中臣鎌足は、中大兄とともに、蘇我宗家打倒・大化の

改新の立役者である。天智朝で最有力な臣であり、後に王朝国家の頂点を壟断

する藤原氏の始祖になる。その鎌足の、少年のようなナイーブな歌が、万葉集

収められている。〈われはもや安見児得たり皆人の得難(えがて)にすとう安見児

得たり〉。意訳すると、〈やった!我はついに安見児を手に入れたぞ。皇族に仕え

る美女、臣下の手出しできない采女(うねめ)を手に入れたぞ〉、といったところか。

このとき鎌足には、すでに二人の妻がいる。だが、禁断の美女集団である采女

一人を、例外的に自分のものにできるのだ。歓喜の歌を詠みたくもなろうとい

うもの。

   律令下の郡司は、一族の娘を采女として、朝廷に差し出す義務があった。郡

司が選考する基準は、まず容姿の美しさである。女は、美貌によって官職や皇

族の寵を得て、一族に繁栄をもたらす可能性がある。序列格差がある社会で

は、女の美しさは貴重な財である。女の美醜が、市場的な価値のように流通する

と、個人の意識はそこからなかなか逃れられない。多くの男が、「醜い」女に欲情

できなくなる。男は、手に入れた美しい女が、地位の証でもあることで、欲情を刺

激される。百姓にとって、美貌を謳われる女は、めったに手に入らない貴重品で

ある。男を喜ばせる美しい女は、だいじな財貨のようなもの。取引の前に、傷を

つけられたり盗まれたりしてはならない。律令が定める婚主の権利には、財とし

て扱われる女の地位が反映している。この時代の「強姦」とは、女性の意志に反

する性行為の強要ではなく、婚主の権利を侵すことだった。

   美しさの評判は、女の自尊感情につながる。だが美貌という財は、自分のもの

でありながら、自分の欲望のためには使えない社会だった。女は、自分の性的感

情に、自由に身を委ねることを禁じられる。「貞節を守る女」という抑制を、心深く

に埋め込まれる。シマの母は無理やり体を弄ばれ続けるなかで、教え込まれ内

面化していた抑制が、たまたま破れた。だから倒錯的な性行為に喜びを感じた

のだった。

   一方郷長は、世の人々が讃える美しい女を思うままにいたぶり、忘我の状態に

追い込む自分に高揚した。妻や身分の高い者たちの前で感じる屈辱感が、癒され

る。身勝手だとはわかっている。それでも自分の訪れを待っている女が、いとおし

く思えてくる。シマ兄妹にはわからないことだが、郷長と母が長く続いていたのは、

二人の間に、そういう関係ができたからである。  (この章続く)