律儀なキツネ

   
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   美幌川のキタキツネ、昨日の「美幌だより」見たのかなー。投稿し終わって土手下

を歩いていたら、姿を現してくれました。「そういや今年はまだ挨拶してなかったなー」

と思った・・・・・はずはないけど。想像するのは楽しいから。

  まずは互いに目と目を合わせ、無言の挨拶。 「さあ、これて済んだからな、朝飯始

めるぜ」とばかりに、ネズミらしい餌を掴まえました。そしてもぐもぐやりながら、土手

向こうへと去って行くのでした。


                      小説 縄文の残光 12
                                     
                                   逃 散(続き)
 

  狼から逃れて半月余が過ぎ、ようやく一家は、栗駒山の南東に広がる高原に着

いた。木立が疎らな高台からは、はるか迫(はさま)中流域の水田地帯が遠望で

きる。そろそろ田植えが始まるのだろうか。このあたりから北は、伊冶城や柵戸の

郷以外、すべてエミシの領分である。夕闇が迫っている。トクシは、迫川上流の崖

上に広がる林の奥で夜を明かすことにした。繁る木々が焚き火の明かりを遮り、

夜の闇が立ち昇る煙を隠してくれる。ここなら、役人や柵戸に見つかる心配もな

く、火を炊くことができる。

  駅路や伝路と呼ばれる官道を来れば、下野から九日ほどの道のりである。だが

官道は、駅屋(うまや=替え馬が用意されている休憩・宿泊施設)の役人や、行き

交う官吏・武人に咎められる恐れがある。それで人気(ひとけ)のない裏道や杣道

を遠回りして、ようやくここまでたどり着いたのだった。

  携えてきた米の残りは少ない。道々摘んできた根曲がり竹の筍を焚き火の灰に

埋め、やっと突いた六匹のヤマメを枝に刺して焼き、分け合って空腹をなだめた。

家族が筵にくるまって眠りについてから、トクシは燠(おき=炭火)になった焚き火

を見つめながら、物思いにふけった。
 
  五年前の力役で送られたのが、今いる森からほど近い伊冶(これはり)だった。

毎日城柵の造作にこき使われた。指図するのは都から来た国府の役人。一番き

つい仕事をさせられていたのは俘囚である。

    ある日の夕方、森で木を伐る仕事を切り上げて小屋に戻る途中のことだ。森が

ガレ場に変わるあたりの、道を五尺(1メートル50センチ)ほど逸れた薮のなかで、

一人の男が呻いていた。「俘囚だ、ほっておけ」と言う仲間を先に行かせ、トクシは

男の様子を見に行った。それが胆沢のエミシ、ノッキリだった。

   ノッキリは、大勢で引き下している丸太の一番後ろで、綱を引いて勢いを抑えて

いた。急坂で暴走しかけた木の尻に跳ね飛ばされ、薮の中の倒木に腰を打ち付け

て動けなくなったのである。他の者は暴れる丸太に引きずられてさっさと去ってしま

い、誰もノッキリの怪我に気がつかなかった。トクシは肩を貸し、なんとか俘囚の溜

りまで連れて行った。

  それからは仕事が終わると毎日、小屋で寝ているノッキリを見舞った。この初老

のエミシは話好きで、尻砂の郷のことも根掘り葉掘り聞きたがった。トクシはなぜ

か下野から来ている仲間より、この男といるほうが楽しかった。だから十日ほどで

ノッキリが元気になってからも、交代の者が来て郷に帰るまでの間、ほとんど毎晩

寝る前、俘囚小屋の陰でおしゃべりをした。ノッキリはヤマト言葉を話すことができ

た。トクシもやがて、エミシ言葉の片言を口にして、ノッキリを笑わせるようになっ

た。 (この章続く)