流氷日和
3月4日 能取岬
平日にしては駐車場にたくさんの車がありました。ここでは珍しく、国外からの観
光客より地元の人の方が多いような印象でした。二台の三脚を立て、じっくり撮っ
ている人がいます。崖を下りて水際へ行く準備をしてきた人もいます。流氷好きな
住民は、わたしだけでなかったようです。いつもはさっと見てさっと帰る人がほとん
どなのに、この日はどの車もなかなか立ち去りません。
予定に縛られている遠来客とちがって、近くの住民は流氷の情報や天気を確か
めて岬に集まってきます。空がよく晴れ、北寄りの風が海に青と白の壮大な絵を
描いているこの日は、まさに絶好の流氷観察日和。過去の分厚い大氷原を知って
いるだけに、視界のせいぜい6,7割を占めるだけの海氷を物足りなく思っている人
もいるかも。だけど、白一色の単調な海より、眼前に巨大な複雑模様が広がるこの
風景の方がおもしろいと、わたしは思います。
映像になった壮大な風景やピラミッドなどの巨大な建造物、そして都会のアスフ
ァルトジャングル。人の意図を介して立ち現れる視覚像なら、これより大きな絵は
いくらでもあります。それらに馴れてしまった人は、初めて流氷風景を見たとき、こ
れが流氷という、大まかな印象を脳裏に刻むと思います。だけどこのあたりの地元
の人は、過去の記憶との違いや微妙な細部を確かめようとするでしょう。ひたすら
受け身になって、人為が無効な自然物への意識をもう一度思い出すかのように。