浅海
野付半島へ行くと、地球史的な地質現象を目にしているような、不思議な気分に
なります。長さは26キロもあります。それなのに幅と言えば、地図では線にしかな
らない細い場所もあります。道に立って少し左右に目をやるだけで、北側の根室
海峡と南側の野付湾の海面が見えるのです。高いところでも海面から3メートル。
地なのに、江戸時代には先端部に港があり、遊郭が作られるほどにぎわったとか。
目の前に見える国後島経由の、北方交易の拠点だったのでしょう。畑も作られたそ
うです。きっとそれだけ海水準が低く、陸が広かった。
今辛うじて二つの海域を隔てる、痩せた場所が長いのは、それだけ砂嘴が沈ん
だということでしょう。江戸時代から現在までの、地球史的には一瞬と言える短い
温は今より低かったので、たぶん江戸時代の半島はもっともっと太かった。
写真は野付湾側の浅海です。潮の満ち干で湿原にも海面にもなります。現在進
行中の温暖化で海水準が上昇すると、まずこのあたりが完全な海底になり、比較
的高い部分が島として取り残されるのでしょう。半島が完全に水没するまでどれだ
けの時間があるのか、そんな思いに誘われる風景です。